犯人の独白


 メイコにはわかんないよね。何気ないカイトの言葉に頬を張られた気分になった。殆ど同時期に発売され、今まで一緒に歩んで来た半ば自身の延長のようなカイトにだけは、言われたくなかった台詞だった。海の底のような色の髪が表情を隠して顔なんか見えなかった。だけど私には分かる。きっとカイトはあの嘲笑とも諦観ともつかない笑顔だったはずだ。その顔をさせてしまった自分に吐き気がした。

 ミクが発売された時確かに嬉しかった。同じクリプトンの妹のような存在ができるのに心が踊った。これだけは誓ってもいい。後暗い気持ちなんて欠片もなかった。でも、徐々に理性を捻り潰しそうな程の感情が渦巻いた。
 なんで。彼女だけなんで。
 認めらるだけの努力もしていただろう。だが私と彼女の間には圧倒的に性能の差があった。全てを受け入れられる程強くなかった私は逃げた。皮肉にもミクや、その後に発売されたVOCALOIDシリーズのおかげで需要は増えていたから。たくさんの音に埋もれれば輝いたステージに居れば綺麗になれそうな気もした。
 実際はそんなに自分は清廉ではなかったけれど。我ながら浅ましい精神だ。

 そう言った不満をカイトが漏らす事は今までなかった。いくつもの罵倒を浴びながらそれでもあいつは笑ってた。あんたねぇ、なんて小言を何度漏らしただろうか。その度にあいつはなんて言って笑っていただろうか。

 薄々は無理をしているのに気づいていた。噴き出せない塊があいつの中にあるのに、どうにも出来ない自分の不器用さを呪ったりもした。
 今思えば結局なんにもしてあげられていなかった。深く息を吐く。私は何をやっていたの。抱えているものが大きければ大きいほど簡単に人に話せるものではない。だけど、だからと言って支えるのを諦めたのは自分だ。
 
 目を閉じれば繰り返し浮かんでくる俯いたカイト。責めるような声音。全てが助けてくれと叫んでる。私が味わったあの渦巻いた気持ちをカイトはずっと抱えていたに違いない。重すぎるそれにむしろカイトはこれまでよく耐えた。摩耗する精神を一人で保ち続けるのに想像を絶するくらいの努力を使っただろう。

 ぶち壊したのは私だ。
 何かあったら力になるわよ。無責任な一言。最早取り返しがつかない所まであいつを落としてしまった。


 カイトの仮面にヒビが入った音が、未だに耳に残っていた。




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