背中

※捏造がひどいので色々とご注意





 物心ついた時にはもうあいつの背中を追いかけてきた気がする。マイペースで、最強で、かっこいい後ろ姿を必死に追いかけてた。努力なんか欠片もしなくてもあいつは最強だった。才能の塊。ある意味化物みたいな霊夢の周りにはいつも人が、いや妖怪がいた。殆どの人間は霊夢に感謝しこそすれ近づこうとはしなかったみたいだ。やつ曰く、私が変わり者らしい。妖怪どもは逆に壊れない人間としてあいつを可愛がった。霊夢がそれを当然のように受け入れてるのが少し腹ただしいけれど、あいつが笑っているならいいやって、許せる自分もいた。
 なのに、最近少しおかしい。今までは神社に私が遊びに行くとあいつが大抵レミリアやら紫やらと話していて、私が手を振ればため息をつきながらもお茶を出してくれてた。でも、最近は。違和感を抱えながらも帽子を被り箒に跨る。魔女なんて形から入るものだぜ。森の湿った地面をいつもよりも強めに蹴り上げて、冬の空へ飛び出した。


「よう。今日も暇そうだな」

「あんたもね。毎日毎日飽きないのかしら」

 そう言いつつも少し嬉しそうな気がするのは自惚れだろうか。そそくさと奥へ消えた霊夢を他所に周りを見渡す。今日も奴らはいない。ここ一ヶ月くらいだろうか。徐々に妖怪すら、霊夢の元へ寄り付かなくなってきた。あの頑丈な連中が揃って病気になるとは考えにくい。かと言って異変でもない。思案に沈む私におせんべいをかじりながら戻ってきた霊夢。相変わらず気にしてるようには見えない。

「あ、今日は私も持ってきたんだぜ」
 
 目分量で適当に作ったクッキーを取り出す。形はそこそこ、味は折り紙つき、魔理沙様特製だ。

「緑茶にクッキーねぇ。ま、頂いとくわ」
 
 日向で潰す時間はこんなにも柔らかいものだっただろうか。落ち着いた空間に最早言葉はいらない気がして黙々とお茶をすする。段々と暖かくなってきた日差しが霊夢の髪を綺麗に光らせていた。艶やかな黒髪が一層眩しくて軽口も叩けなかった。思春期の男か、私は。一人心の中でツッコミをいれる。

「そう言えば、私ね」
 
 超然とした態度で、霊夢は告げる。まるでなんてことないかのように。

「もう博麗大結界に必要ないみたい」

「……は?」

 どういう意味だよ。茶化そうとして、こいつの目が伏せられているのに気がついた。霊夢が泣いたところなんて見た事ないけれど、泣きそうだと、直感だけで思った。

「正確に言うと逆ね。博麗大結界が私に必要ない。本当はね、あれ私の枷でもあったの。力を縛るためのね」

 そこで一息つかれた。対照的に私は呼吸すら出来ないでいる。こいつが桁外れに強いのは知っていた。化物のようだと、噂された時があるのも知っていた。妖怪どもに出会って、種族は違っても近い相手が出来たと内心喜んでいたのも知っていた。私では力不足だと悔し涙を流したこともあったけれど。それでも霊夢が目を細めてお茶を啜れるならいいと思っていた。

「紫ですら、私の全力の足元にも及ばないってことよ。あのスキマ、ちゃんと修行してるのかしら」

 お前が言うなよ。一切修行なんかしてないくせに。

「だから、あいつら来ないのか」
 
 無表情に霊夢は頷いた。その態度で何かが切れた。

「ふざけんなよ! じゃあなんだってんだ!? あいつらは今までお前と対等にやりあえる可能性があるから傍にいたのかよ!? 自分らが絶対に敵わないって分かったら尻尾まいて逃げ出しっていうのか!!」

 身体が熱い。むかつく。今までを裏切ったような妖怪にも。それを悲しむだけで怒らない霊夢にも。敵わないからって逃げ出すのが正しいなんて私は絶対思わない。じゃあ私はなんなんだ。何年もこいつの背中しか見えてない私はなんなんだ。
 あいつらぶっ飛ばしてやる。箒に勢いよく跨り宙にうこうとして、私は思いっきり地面と激突した。ファーストキスは土の味とか、笑えない。
 箒を掴んだ犯人、博麗霊夢に文句を言ってやろうと口を開きかけて言葉を失った。
 初めて、泣いているのを見た。泣き方すら分からないのか、声も出さずに次々と雫をこぼしていく。慰める言葉もさっきまでの怒りもどこかへ消えて箒を手放した。

 空になった両手で霊夢を抱きしめる。細い。あまりにも華奢な身体に、力をこめた。

「私は、どこにもいかない。ずっと霊夢だけ追いかけてるよ」

 勝手に飛び出す気障ったらしい台詞。余裕なんかなくて。追いかけてたはずの霊夢が腕のなかにあって。苦しいと、少し押し返される。

「約束だからね」
 
 見上げてきた霊夢の顔を、多分私は一生忘れないだろう。不敵そうなこいつこそ、私が追いかけている博麗霊夢なのだ。

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