さくら




「凛ちゃん、桜ちゃん、はいお土産!」

 そう言ってたまに遊んでくれるおじさんの事を私は好きだった気がする。優しいお母様、厳しいお父様も好きだけれど、少し草臥れた服を着たおじさんの事を私は好きだった。お土産を持ってきて、私たちと遊んで。少しお母様と話したらまたねと手を振って帰るおじさん。彼が姿を見せなくなったのは、間桐と遠坂の家が原因だった。

 今思えばきっと、私は残酷だったように思う。たった一人の妹を忘れて、遠坂の当主という言葉に逃げた。違う、妹だけじゃなくてお母様が辛いのも、おじさんが辛いのにも目を背けた。子供だから、仕方ない。お父様がやったことは将来を考えれば。
 ……なんて全部言い訳。本当は知っていた。間桐の家がどんな魔術を扱うのかも。始まりの御三家として密接に関わっていた私は知っていた。
 
 でも、どうしようもなくて。こっそり調べれば調べるほど間桐臓硯なる人物の強大さに絶望した。足掻くまでもなく、倒せない。幼い私ですら実力さに気づけたのだ。おじさんが、気がつかなかったなんて事ない。


 それでもおじさんは、いや雁夜さんは決して諦めなかった。当時は知りもしなかったけれど、今なら知っている。雁夜さんは桜の為に死に物狂いで修行を積み、聖杯戦争に参加して、死んだ。結果だけ見るなら犬死だ。あの時桜は救われなかったし、だからこそ第五次の戦争が起こった。
 だけれど、確かに雁夜さんは桜の心を救ったと思う。その証拠にいま、桜は笑えている。一緒には暮らせていないけれど、私に笑顔を見せてくれている。雁夜さんが、必死で願った未来は、細い糸のようではあるけれど確かに今に繋がっている。
 ……毎年、桜の季節になると私と桜は連れ立ってお墓参りに行く。過去を悼むのは生者の勝手な自己満足なのかもしれない。それでも、私は彼に花を供える。
 彼が大好きな、綺麗な桜の花を。


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