青春ラブロマンス

 ……気に入らない。本当に気に入らない。
 今日はリンと二人別々の収録。たまたま隣のスタジオに入れたのはとても良かったのだけど。

「ゴミついてんぞ」

「あっありがとうクオ兄!」

 リンの収録は顔だけは無駄にかっこいいミクオと一緒。そして先ほどから休憩の時に隣の様子を伺っているのだがどうにも二人の距離が近い気がする。淡い綺麗なエメラルドブルーの髪がリンの周りをうろついていて、気分が悪い。別にリンを信じていない訳じゃないけれど俺相手じゃなくて楽しそうに笑う彼女に嫉妬をしてしまうのは仕方がない。
 ついつい噛んでしまった唇を誰かの指が触れた。見上げれば一応、いやかなり尊敬しているミク姉。なんだかんだ言って先輩として威厳と頼りがいを兼ね備えた彼女の事はそれなりに好いていた。多分、リンも。見慣れた金色を思い出した途端ついでにミクオが出てきてまた少し気分が悪くなる。自分でもありふれていると分かっているがぐずぐずと燃える感情を止める術など知っているはずもなかった。

「血、出ちゃうよ? 気になるのはわかるけどさ」

「……だって、リンが」

 きっとどこまでいってもこの気持ちが満足することはないし、きっと満足してしまう時は俺がリンを壊してしまう時だ。誰の目にも触れさせないで閉じ込めて俺だけがリンを見てリンは俺だけを見ている。そこまでいってしまいそうな感情をギリギリのところで押さえ込んでいる俺には、恋人が他の奴と仲良くしているというのに平気そうなミク姉の方が信じられなかった。
 どうして、なんて自分の女々しさと比較してしまう。

「リンちゃんを信じてるでしょ?」

 勿論。即答するつもりで喉に力をこめればにっこりと笑うミク姉と目があう。思いの外力強い視線に晒されて何も言えなくて情けなく黙り込んでしまう。
 肩に手を置かれ、含みを持った言葉が耳に届く。

「それくらい強くならなきゃ駄目だよ、レン君」

 笑顔のままミク姉は続けざまに収録終わったから帰るねと告げられる。言葉の余韻に浸る間もなく扉が閉められ一人取り残される。有体に言えばやきもちを妬いていた俺が貰ったアドバイスを有効活用する為に深呼吸していてもやはりミク姉ほど落ち着いた気持ちにはなれない。渦巻くのは自身の汚い独占しようとする欲と、リンに自由でいて欲しいという希望。二つとも、本当で、でもちょっと目を離した隙にバランスを崩してしまう危ういもの。
 とりあえずは作り笑いの準備は出来たので向こうのスタジオを覗きこめばもうリンはいなかった。休憩にでも言ったのだろうか、ミクオもいないんだけど。まさか二人で? 早速作った笑顔が壊れたことに己の器の浅さを痛感しながらも気になるものは気になる。身を焦がすような、とはよく言ったもので熱い嫉妬が再燃する。

「レーン! 終わったよ!」

 唐突な衝撃。
 いきなり預けられた体重とぶつけられた勢いを受け止めきれずによろける。当の本人は楽しげに腕を回してきて、でもあっさりと笑みの形を描いた口を止めることも出来ず形だけの注意を促す。危ないなんて欠片も思っていない恒例のやり取り。さっきまで支えていたものが取れたように自然な空気に居心地のよさを感じて思わずさらさらと同じものを使っているはずなのに遥かに綺麗な髪を撫でれば、いつもと違って少し口を尖らせられた。

「……レンさ」

 真剣な声音にどきりとする。伏せられた長い睫を見つめながら、次の言葉を待つ。

「さっきミク姉と何話してたの? あの、別に何を話しててもレンの自由なんだけど、あ、別に束縛したいとかじゃなくてね」

 たどたどしく綴られるリンの心内は多分俺が感じていたものと同じなもの。そのことにすら少しながら嬉しいと思う。リンは表現が少し下手だから、彼女が言いたい事の十分の一も言葉に出来てないんだろう。でもちゃんと俺にはリンが言いたい事はわかった。双子だからとかじゃなくて、恋人だから、だと胸のうちで誇らしげにしておく。

「リンが嫉妬してくれたのと同じように俺も妬いてたよ。ううん、リンよりもっとかな」

「え? ちょ、それって」

「だーかーら、あんまり他のやつんとこ行かないで」

 信じてる。だけどやっぱり一番近くにいたい。素直な感情をぶつければにやにやと浮かべられる笑顔にデコピンを食らわせる。

「痛い」

「今のはリンが悪いんですー」

 まだまだミク姉達のようにはなれないけれど、二人で一歩ずつくらいなら近づいていこうよ。そう願ってもう一度リンの頭を撫でれば、世界で一番可愛い恋人は頬を分かりやすいくらい緩ませた。



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