メランコリックシチュエーション

グランドに映える白いユニフォーム。照りつける太陽より眩しくて目をそらせば窓に火照った自分の顔が映ってほっぺたを慌てて引っ叩く。何、赤くなってんの。馬鹿じゃないの、私。
 むにむにと頬を伸ばしてみれば伝わる熱さにいよいよ馬鹿らしさがます。一人で目で追いかけて、赤くなるとか本当馬鹿。手入れに気合を入れている髪をピンで留めなおす。焦ったときにやってしまうオマジナイに近い癖は幼稚園の時から変わらないものだった。別に気取ってるわけじゃないんだけどな。
 クールで大人っぽい鏡音、なーんて的外れもいいとこな噂が流れてるおかげで人前で笑うのも一苦労で、こっそり訪れた人気のない廊下。たまに息抜きとして来る此処は旧校舎との連絡通路で私以外で使ってる人がいるのを見た事がなかった。クールじゃなくて、人見知り。大人っぽいんじゃなくてお姉ちゃんの趣味。そうやって一々弁明するのも口下手な私には出来なくてついついイメージだけが一人歩きしてしまう。時々それがどうしようもなく寂しくなってしまって、こうやってグランドを覗くのが学校生活の唯一の楽しみだ。
 ひょこりと背伸びして向こうからはバレないようにもう一度覗けば汗をかきながら活動している野球部。こう、部活とかに一生懸命な人は誰でもかっこいいと思うけれど、特に鏡音君は目立つし、なんていうか、かっこいいっていうか。別に恋なんかじゃないと思う。たまたま同じ色の髪と同じ苗字なのが気になっていて、同じクラスになった時の明朗な笑顔とかが頭にこびりついてるわけじゃなくて。内気な私とは対照的な、社交的な彼。憧れみたいな気持ちが膨らんで風船みたいにふわふわ、地に足がつかなくなっちゃう。


「鏡音ー! ボールいったぞー!」
「はい! セカンドー!」

 ちょうど鏡音君が初心者の私から見て惚れ惚れするようなフォームで二塁に送球をしたところをばっちり見てしまった。またまた上がる体温にどうにも調子が狂う。これ、病気なのかな。こんな所で一人でいるところなんて見られたくなんてないのに、こっち向かないかな、とか。本当馬鹿だ。第一寒くて窓を閉めてるんだから向こうからは反射で見えないに決まってる。
 ……残念だとか、別に思ってない。まだ恋愛なんてよく分からない。中学生なんて、まだ子供だよと笑ったお姉ちゃんの顔が浮かぶ。私とは似てない明るい赤い髪を短く切り揃えて笑うお姉ちゃんは本当、妹の私から見ても美人だ。しかも気さくだし、そりゃお酒癖が悪いところはあるけど自慢のお姉ちゃんではあるけれど。
 お姉ちゃんは口癖のようにリンはまだ子供なんだから、ゆっくり進めばいいのっていう。言うとおりだっていうのは分かるから友達とか彼氏とか私のペースで頑張ればいいと理解してる。
 だけど、だけどだけど。
 鏡音君を見てると心臓が早くなるし、病気みたいに身体が熱くなるし、これはミクちゃんに借りた少女漫画でいう恋ってやつなんかじゃないかと恋に憧れている自分がいるのも否めない。確かに初恋だってまだだし周りの子より大分皆にどう思われてるかはともかく子供なのは事実だから好きの違いとかも分からないけれど。

 ドキドキするこの心が、急上昇する体温が、自然と零れる幸せな気持ちと少しの苦しくなるようなこの気持ちが、もしかしての可能性を押し上げてきている。
 話だって下らない話しかしたことなくて、何が好きかとかも分からない。知りたい、とは思う。だけど目を見てそんな話をするなんて絶対無理だ。たった一言で今の少し仲の良いクラスメートという関係性を崩すなんてしたくない。こうやって鏡音君が頑張る姿を見てる時が一番幸せだなんて安っぽい気持ちを抱えているのにどうやって恋愛だなんて言い出せるんだろう。自分でも分かってない気持ちをぶつけるだなんて迷惑に決まってる。
 それに、鏡音君は女子から人気が凄く高い。素な時の無愛想な笑顔とか、それだけで好きになってしまう女の子もいるわけで。もし万が一、いや億が一私が鏡音君を好きだったとして鏡音君も私を選んでくれるだなんて都合のいい妄想は奇跡にしか過ぎない。カーディガンからちゃんと手を出して冷たい窓に触って右に少しずらす。きちんと映し出される自分の姿にため息しか出ない。
 お姉ちゃんと違って凹凸の少なく、尚且つ小さい身体。
 軽くピンで留めただけの可もなく不可もなくな髪型と、お姉ちゃんの趣味で少しだけ着崩している制服は子供っぽい私に対して浮いている気がする。
 唯一鏡音君とお揃いだと気に入っている黄色い髪の毛だけは手入れをしているけれど、化粧なんて勿論していない。
 大人っぽいというか色っぽい女の子も可愛い女子もたくさんいるから、私なんて見られてないよね。いやだから別に鏡音君が好きなわけじゃないんだけどね。ただ、鏡音君のタイプがどんな子かは気になってはいるけど。

「レン君……」

 あっ。
 思わず口を押さえる。押さえても零れた言葉は帰ってこない。言うつもりなんて欠片もなかったはずなのに、勝手に声に出してしまっていた秘密のような言葉を改めて意識するとすごく恥ずかしい。
 なんだか一人で馬鹿みたいで、ちょっと照れてしまって。

 手櫛できちんと梳かしてから私は白いシンプルなピンをつけなおした。

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