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私は物の影から柴田勝家を見つめていた。好きと言うわけではない。お化け屋敷とやらに行きたいのだが、友人達は嫌がった。勿論、私は項垂れた。
だが、放課後のオカルト研究部の部室でひっそりと、日本古来から伝わる怪談を調べる柴田君ならば大丈夫と言ってくれるはず。

「柴田君!」
「……貴女は確かこの前オカルト研究部に遊びに来ていらした琴枝か。」

物の影から飛び出し声を掛けた。本から顔を上げ、数日前に研究部に遊びに来ていた事を思い出してくれた。

「覚えていたなんて嬉しいよ。」

さて早く本題に入らないと、と琴枝は携帯を出し画面を勝家に見せる。

「ここのお化け屋敷に行きませんか?!」
「……。」

やはり人を誘うのは緊張する。琴枝の声は震えていた。
勝家は興味深そうな目では無く無表情で、いつものように感情が読み取れない。

「これは独りでも大丈夫なのでは?二人限定や恋人限定という文字が書かれていない。」
「え!あ……。」

確かに制限は掛けられていない。しかし、琴枝の中でお化け屋敷とは二人以上で行くものだった。

「友達誘ったんだけど、嫌がられてさ……だから柴田君とならって……あはは。昨年の文化祭でお化け屋敷仕切っていたから好きなのかなって。」
「確かに好きなのです。が、行ってもお化けが出て来ない。」
「は?!」

恐る恐る聞けば、柴田君も友達をお化け屋敷に誘っては断られていた。仕方がなく、柴田君は一人でお化け屋敷に入ってたそうで。そこは流石、男だと思った。

だが、お化け屋敷なのにお化けが出ないって何か可笑しい。

「不思議……まさか、他の人と遭遇した時、逃げられていない?」

同じクラスの伊達君や石田君と違い、柴田君は人の皮を被った妖怪みたいな感じはする。

「……確かに。」
「(うわぁああああああ)」

不憫過ぎる!聞いてすみません!
せめて、伊達君一味を誘えば大人数になるよ!言いなよ!

琴枝は内心そう思ったが、その時、政宗は「嫌な予感がするぜ……。」と呟いていた。

「私と行っても迷惑なのでは?」
「ううん。そんな事、絶対に無い!行きたい者同士だよ!絶対に楽しいよ。ねえ、いつ空いてる?」


笑顔で手を差し伸べた琴枝。
何の真似かと聞けば、「鶴姫ちゃんの"ぐっ、と友達☆"のおまじないなんだ」と言った。琴枝は、オカルト研究部に遊びに来ていたが話してはいなかった。
元々、興味すら無かった。
琴枝の方から誘って来た時は戸惑いを感じた。だが、わざわざ私を誘うのは選んだのは妖怪の悪戯か。

妖怪の悪戯でも掴んでも良いのだろうか。


琴枝の体温は暖かった。



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