※主に柚子目線。遊矢が宝石店の息子設定
私は道に迷ったみたいだ。
それも、一風変わったデパート。
高級な宝石店が連なる場所が多い。
とにかく、こんな大人の世界に私のような中学生が居るわけにはいかないので抜け出そうと奥へ奥へ……。
明かりがフッと消え、眠たくて閉じかけていた目を明けたら……薄暗い宝石店に着いたようだ。
「いらっしゃいませ、お嬢さん。」
まるで、優雅に紅茶を飲むかのように挨拶をされた。
明かりに照らされているのは商品である宝石のみなので、声を聞くまで男子……それも私と近い歳だとは気付かなかった。
「ごめんなさい、私は道に迷っただけなの。宝石は買えないわ。」
取り合えず道に迷っていることを伝えた。
後ろを振り向くとさっきまであったはずの他の店舗や道が真っ暗で見えない。
「道に迷ってこの『榊宝石店』に来れるのは珍しいです。」
「……この店もデパートの奥にあるんでしょ?」
すると、少年は笑い声を上げた。
「違いますよ。ここは、特別な者しか来れない宝石店です。一般の皆様の立ち入りは禁止させて頂いてます。」
「摩訶不思議な事もあるのね。あなたが店主なの?」
「そうです、今のところ私が店主でございます。父さんが帰ってくるまで此処に待つのです。」
「寂しいものね。」
足が疲れたと言えばせっせと椅子を出し、喉が渇いていると察すれば紅茶を出す。
そんな少年の姿を見て、お客様は神様にしてもおもてなし過ぎなのでは?と柚子は首を傾げる。
「今は寂しくありません。」
(少年の顔が中々、見えないな)
柚子は紅茶を飲んだ。そのあと、直ぐに少年が紅茶を飲む音が聞こえる。
「とても美味しいわ。只の道迷いなのにごめんなさい。」
「気にしなくて大丈夫ですよ。エンターテイナーの役割です。」
「宝石店の息子なのに?」
「おやおや、説明をし忘れました。ここは私と賭けをして勝ったら無料で宝石を貰えますが、負けたらどんな事情であれ買わされる宝石店でございます。」
「始めに言え!!!」
私は少年の頭をハリセンで叩いた。
どうやら、めんどくさい事に巻き込まれてしまった。
ハリセンで思いっきり叩いてしまったせいが口調が変わっていた。反省したのかしら?
「先程はすみません。お詫びとして、珍しいこの世で一品しかないブレスレットを賭けましょう。」
入れ物に入れられていたのは美しいスタールビーという丸く加工された宝石が入れられたブレスレットである。
ルビーよりも色は薄くピンク色に見える。
「これって負けたらかなり値が付くわよね?」
「いいえ。今回は負けたとしても何%かは値引きします。」
……余り宜しくない。
賭け事はトランプでするらしく一番上のカードを言い当てる、ごく簡単なルールだった。
しかし、1/52の確立という少ない希望だと知ると冷や汗が流れる。
少年はカードを切り、一番上を捲り「さて、何でしょう?」と微笑む。
「ハートの4。」
私は適当に答えた。
すると、少年は捲ったカードを見せ……
「当たり。」
そう言いながら微笑んだ。
ブレスレットを腕にはめられる。
「まさか、負けるとは思っていなかったよ。」
「勘で答えただけだわ。」
「次、来たら勝ってみせる。」
「私も負けないわよ!」
お互いに顔が見えない宝石店で、二人はお互いに微笑んだ。
柚子と宝石店(次に会えるのはいつかしら?)
柚子と宝石店