七夕butterfly! 3
ペンを手に取り短冊に書いた時、琥珀の目に遊矢の姿が映った。ただ、笹に飾られた短冊を眺めていた。
−−−
父さんが失踪してから、遊矢の周りでは理不尽な事が起こり続けた。
今まで俺の父さん−−遊勝さんのファンとして俺に親しかった皆は掌を返したかのように虐めた。
懐かしい教室の自席に遊矢は座っていた。そうしていたら、黒板消しが飛んで来たので避けた。早くやれ!というバッシングが来たから、泣きそうになりながらも黒板の文字を消していく。
そしたら、俺の後ろでその姿を見ていたクラスメイトが黒く歪んだ人形(ひとがた)になっていく。
思わず俺は黒板を消していた手を止め、後ずさった。
次の瞬間には恐ろしい言葉が俺に降りかかる。
『今まで利用し続けただけだ!』
『弱虫〜!!』
『ざまーみろ!』
いつもならば、この場所に柚子や権現坂が居てくれるのに居ない。何故か呼吸が乱れ、人形は俺に指を差していく。
そして、俺は叫んだ。
「『やめろ……!!』」
呼吸を整え、周りを見渡せば俺の部屋だ。
(……夢なのか?)
俺はどうやら寝ていて悪夢を見ていたようだ。
(くそっ……!!)
父さんは決して、怖くなって逃げた訳では無いのに。
今日まで時々見てしまう過去の夢を思い出しては涙が出てくる。
水を飲もうと台所に行けば母さんが立っていた。
「遊矢、顔色悪いよ?」
どうしたんだい、と母さんはタオルをくれた。
「ありがとう。あのさ、もう遅いんだけど外の空気吸ってきても良い?」
「……何処に行くんだい?」
「……駅。やっぱり、駄目かな?」
母さんの視線が痛かったが、次には優しい声で「良いよ、行ってきな。」と返してくれた。
そして、今俺は短冊を眺めている。
様々な願い事を見ながら、エンタメデュエルの参考になりそうなのを考えていた。
「あ……。」
その短冊の一つに"榊遊勝さんが帰ってきますように!またデュエル観たい!"と書かれていて、嬉しくなった。
「あ、私と同じことを書いてる人が居るね!自体的に幼い子なんじゃない?」
その時、琥珀という思っても無い人の声が聞こえたので、俺の肩は跳ねた。
「……びっくりさせないでよ、琥珀」
「どーも!お久し振りだね、遊矢!」
笑顔で短冊を付ける琥珀。まだだったんだ。
「遊矢は短冊書いたの?」
「うん。まあ……。」
そうすると、琥珀は俺の短冊を探し始めた。
「あったよ!"エンタメデュエルを広める"って遊矢らしくって好きだな!」
跳ねながら俺の腕をブンブン上げ下げする琥珀が少しだけ眩しく見えた。
『私も柚子ちゃんと権現坂のように遊矢を守って見せるから……。』
『大丈夫、また父さんに会えるよ!そしたら、アイス一年分貰おうよ!』
『あ、あの件で遊矢と同じ舞綱市立第二中学校に飛ばされたの。改めて宜しく!』
七夕butterfly!(七夕を過ぎても、また出逢える)
「……どうしたの?」
琥珀が手を止め、俺に聞いてきた。
「もう夜遅いし帰ろっかな〜って。」
「ならば、琥珀姉貴が送ってあげるよ!」
「いや、いつもの琥珀で……。」
昔のやんちゃをしていた時の琥珀の姿が脳裏に浮かんだ。
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