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合歓木は目的地に着いた。
歩き続けたせいか、肩で息をしているし、足も痛みを訴え身体は怠さを訴えている。

「歩き疲れた……。」

一言だけ呟く。次に、目を細め空を見つめた。夕焼け空の綺麗な夕陽だ、きっと明日は晴れるだろう。

合歓木は口角を上げ微笑んだ。

そこに、一つの影が合歓木の傍に忍び寄ってきた。その正体を合歓木は知っている。いくつもの"世界"でお世話になっている小柄な人物−−素良は飴を舐めながら話し掛けた。

「今日、またユーゴに近付いたよね!どうだった?」

「相変わらず、前と変化無しでリンちゃんの事が好きらしいです。」

「……そうなんだ(ユーゴは相変わらず片想い)。一応、この世界は他のよりも合歓木と黒咲は仲良いよ。」

どう思う?と首を傾げる素良。私は別に何とも思わないが、ドッペルゲンガーであるため、黒咲と合歓木に近付けないし話し掛けられない。

−−−
それは雪の日。

私は黒咲の家から飛び降りた。

しかし、雪が積もっていた為、致命傷は避けられた。

何故、飛び降りたのか理由は覚えていない。

肩や頭部を打ったせいかクラクラしながら歩いた先に、今、私がいる場所(小屋)に辿り着いた。

次に、目が覚めたときには次の"世界"に飛んでおり、目の前には素良が居た。

『……水色……さん?』

『曖昧だけど、覚えているようだね……。』

呂律は回らない。
思考回路は止まっている。
身体は痛みを叫んでいる。

『当分の間は、ユーリから身を隠して休んでて。』

それは真剣な声だった。

『ユーリ……?』

『ユーリは今現在、この世界を繰り返させて一部の人を閉じ込めている人だよ。到底勝てそうにない。』

『……あ。』

ぼんやり薄霧掛かった記憶にある一人が浮かんだ。それは昔、隼に『不審者』と訴え関係が進むキッカケとなった人物だ。

−−キミはこの世界に居るべきではない。

『それは、私を追いかけ回した不審者?』

その事を話した瞬間、素良は黙り込んだ。今もなお、その人については聞き出せていない。

気付かない内に、ネムの不自然な語尾は消えていっている。

確かに合歓木は次の"世界"でも居るのに、別の合歓木が居ることに素良は首を傾げた。

黒咲も同じ様な現象が起こっているのでは?

(ユーリとプロフェッサーは気付いていない。)

ならば、大丈夫であろう。