08
数時間前。

「ねぇ、合歓木。」

ぼんやりと発表を聞いていたら、突然名前を呼ばれ目を覚ました。

−−−

「え?誰?」

僕は合歓木を呼び出した。眠たそうな声が聞こえた。

どうして僕か入れたか?

それはこの発表会は保護者や地域住民も出入り自由だから、紛れてみたんだ!

こういう日は警備がユルいから嘘すらバレない。

「合歓木、こっちに来てくれない?」

「あ、はい?」

合歓木は最後の列に座っていたから直ぐに見つけられた。

偶然にも黒咲は合歓木と距離が遠い。

「ねえ。」と聞いてきたから「静かにして。」とジェスチャーすると黙って僕の手を掴んだ。

暗いからはぐれるのでは無いかと考えたが、合歓木の手を掴んでいる限りは大丈夫だろう。

生徒や教員の隙間を抜け、素早く学校の外へ出た。

昼前の公園。
学生は一切いない。

「もう大丈夫ですかい?」

「うん。学校から出たからね。」

「……声を掛けるならば、学校の外からでも良いんですよ。んで、水色さんは何という名前?」

「それはまだ言えないかな?」

ペロペロキャンディーを口に含む。

「私の名前は何処で知った?」

「久しぶりに会うから忘れてるんだね。」

「は?え。」

合歓木が突然、手を叩いた。

しかも、思いっきり僕の顔の目の前で。
突然の事だったから僕の身体は怯んだ。

「ハエが居たん。ペロペロキャンディーを狙ったのね。」

一旦手を洗いに行く、と言うと合歓木は走り出した。

もしかして、合歓木は僕の正体に気付いたのかな。

このまま逃げられるけどまぁいっか、と思っていた矢先、合歓木が戻ってきた。

……本当に居たんだ。

「ねえ、何かお菓子持ってない?」

「私はなにも。」

すると合歓木のお腹が鳴った。

「もしかしてお腹空いてるの?」

「うん。」

「なら、一緒に食べに行こうよ!」

合歓木は公園の時計を見た。

少し考えた後、少し早いけどね、と言いレストランに入った。

−−−
私は黒咲くんに嘘をつく。

呼んだ人の顔をハッキリ見ていたこと。
相手がお腹空いていたからと、お菓子を与えていないこと。
長いこと接触していたこと。
これらの嘘は、あの水色ヘアーの少年に指示されたのもあるが、私は彼と接触しなければならないと思ったのだ。

「久しぶりに会うから忘れてるんだね。」
この言葉が引っ掛かる。