幼き夢のあと



遊矢くんと一回り年下の子の話
遊矢くんが先生



両親に連れていかれ、初めて生でアクション・デュエルを見たのは、いつだったか。確かな事は悠祈が学校に通う前だったと言うことと、まるで悠祈の大好物のようなトマトのような髪型の少年がデュエルをしていたと言うことのみだった。

『榊さん!』
デュエルの後、お母さんがそのトマトのような髪型の少年を呼んだ。知り合いだったのだろう。
『あ、久しぶりです。見てくれていたんですね!』
『はい。今日は新しい家族も連れてきましたよ。』
はい、と促され少年の前に立たされた。知らない男の人で、悠祈より大きいため戸惑いを隠せなかった。
その悠祈を見かねて少年は笑顔で『君の名前は?』と聞いてきた。
『悠祈……。』
下を向いた七味に少年は頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。そのような人になるのが夢だったが。

「やっぱりダメね。」
諦めたように呟くフィールドに居るのは悠祈と他にもう一人のプロデュエリスト。相手は悠祈の事を「雑魚だな。」と煽ってきたがその通りだった。
デュエルセンスなど無いに等しく悠祈はその夢を諦めていた。あのフィールドを駆け回ろうとしても、モンスターが嫌がるし運動神経だけでは難しい物だと思い、捨てた。
なら、あの少年が通っていた塾に行こうかと思ったが、通った所で大手となった塾では会えずに断念。
しかも、少年はデュエリストから引退を果たした。もう会えない存在となったのには間違いない。
あのデュエルから数日後、学校で悠祈は風の噂を聞いた。
「4月に新しく来る先生がイケメンなんだって!」
「他に写真とか情報とか無いの?」
「写真は無くって……ひと昔まではプロデュエリストまで上り詰た人みたいよ!」
女子のコソコソ話を遠くから聞いていただけなのだが、プロデュエルと聞いたとき椅子から立ち上がった。自然と身体が反応し動いただけなのだが、音に反応した女子は話を止め悠祈の方を向く。
「プロデュエリストなら名前とか分からないですか?」
「何よ、知り合い?」
女子が悠祈を睨む。怪しいから当たり前だ。
「七味さんは、今までデュエリストを目指していたけど落ちこぼれで辞めたんでしょ?」
ぐうの音が出ない悠祈は、もう片方の女子からの威圧に耐えるしか無かった。
「(やはり、私は落ちこぼれなのか。)」

4月。
新任教員紹介の時、悠祈は目を疑う。
「新米教師の榊遊矢です。この学校は俺の母校なので……。」
昔に憧れた人が手の届くところに来たのだ。少しだけ希望が湧いたその勢いで"榊先生"の元まで走るが、やはり女子の群れで前に進めない。中には男子の群れもある。
「……っ、榊さん!」
届くはずないが、名前を呼んだ。
すると、道が開いていたのか悠祈は前を支えていた者が無くなり倒れる。
「あぎゃ!」
「無事か?」
「あ、はい。何とか!」
そう言われ立ち上がる。みんなの視線が痛いのは避ける為、後ろを向かない。
「良かった。でも、俺は榊"さん"じゃなく"先生"だ。」
「すみません。でも、私が幼いとき母に連れられて……!!?」
突然、話を遮られ「それでも駄目だ。」と言われ続けた。やっと会えたのに、こう言われるのはやはり心に来た。
でも、ここで嫌われて終わるものか。
「残念です。えっと、私の名前は七味 悠祈なのでちゃんと覚えて下さい!」
そう言い捨てて悠祈は榊先生から離れていった。
「何、あの人!知り合いなんですか?」
「実は昔に……。」
遊矢は走り去る悠祈を見送った。何年も月日が流れたせいで忘れていたが、悠祈とは昔に会っていた。
懐かしむように目を細めその姿を追い掛けた。



(諦めた後に憧れの人と出会ってしまった。)

後日談
「数ヵ月前に沢渡から聞いていたけど、まさか、この学校に居るって……。」
「沢渡?」
「数ヵ月前にデュエルをした相手だよ。」
「遊矢先生の親友と出会っていたとは思っても無かった。」

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遊矢くんが先生になる話を見掛けた事が無かったので書いてみました。このあと、仲良くなると良いな。んで、デュエルの腕が良くなるはず!