メイド喫茶でバイト!



大学受験戦争を乗り越えた悠祈は、バイトをしようかと悩んでいた。

(周りの人はなんのバイトをしているのかな……)

『ねぇ、柚子ちゃん、』

「なに、悠祈?その本はバイト情報誌……バイトをするの?」

さすが、読みが早い柚子ちゃん。

『そう。柚子はなんのバイトをするのかなって。』

高校に入ってから出会った友達−柊柚子に取り合えず聞いてみたけど、彼女は遊勝塾のバイトなのかな。

「私は……遊勝塾もあるけど、」

ほら、やっぱり。

「今だけのバイトをしたいわ!」

少し違う回答に驚いた悠祈。遊勝塾のバイトは受験競争以前から毎日よ!

『例えば?』

悠祈は私に食い付いてきた。これは、チャンスかしら?いや、嫌われたら……その時はそのときね。

私は腹を潜って悠祈に言った。

「メイド喫茶で働かない?」


そんな訳で悠祈は柚子とメイド喫茶に働くことになったのは4ヶ月前−−−−。
大学に入ってもこのバイトを続け梅雨の時期に入った。

今日、柚子は有給を取り悠祈は一人で店番をしている。

外はどしゃ降りの雨だから、誰も来ないので携帯を弄っていた。


−−カラーン


メイド喫茶の扉が開くおとが鳴り、慌てて音が鳴った場所まで行く。

『お帰りなさいませ、御主人さま♪』

営業スマイル萌えversionでお客様を迎える。普通ならばここで何かしらの反応があるのだが……。もしかして、風で扉が鳴っただけ?

恐る恐る営業スマイル萌えversionを解くと固まっているお客様がいた。

歳は悠祈と同じぐらいだ。

「あの……俺、雨宿りをしたいだけなんですが……。」

普通に接してもらえる?

お客様は笑顔で私に頼む。

珍しいお客様が来たものだ。悠祈はタオルを持ってきてお客様に渡した。

「土砂降りの雨の中、お疲れ様でした。どうぞ。」

「あぁ……ありがとう。」

お客様は癖毛なのか不思議な髪型をしていた。2色に染めたのかと思えば生まれつきらしくこれまた、不思議だった。

悠祈とお客様しかいない店内はとても不思議な感じがした。

(今日は不思議だらけね)

『御主人さま……じゃなく、お客様?ご注文は……。』

これではメイドではなくウェイトレスだ。

私自身、メイド喫茶でしか働いたことが無いので何と言えば良いのだろう。

言葉に迷っていると「無理しなくって良い。」と言われたので『お客様なので……、』と返してしまった。

(しまった!!)

「……メイド喫茶だから仕方がないか。雨はいつ止むか分からないから、このオムライスとメロンソーダをお願いします。」

メイド喫茶だからこそですよ!と言いたい気持ちを抑え『オムライスとメロンソーダですね!かしこまりました!』と調理場へと向かっていった。


オプションを求めている訳では無さそうだったのでハートマーク等は描かないで頼まれた品物を持っていく。

『お客様、お持ちしました。』

どうやらお客様はデュエルモンスターズのカードを机に広げていた。悠祈の姿を見て慌てて仕舞った。


俺は閉店時間ギリギリまでお店にいた。色々と話していたせいかもしれないが、このメイドさんと居て気持ちが良かったせいからだ。

「長居してごめん。」

『大丈夫ですよ、お客様と一緒に話して楽しかったです。そして、沢山頼んで頂きありがとうございます。』

「また、行きたいな……。」

『喜んでお待ちしています♪』

「……あの、名前は?」

(しまった……!メイドさんに聞いて良いのか、良いのか?!)

無意識に言ってしまった言葉に驚きを隠せなかった。

「いや、えっと……。」

『今回だけ特別ですよ。七味悠祈と申します。』

「お、俺は榊遊矢……です!」

顔が熱い……!!

このメイドさん……悠祈の笑顔を見るたびに顔が熱くなるのを感じる。胸が苦しくなるような感じがする。

この感情はあのとき以来かもしれない。

(いや、まだ……初めてだし。)

この気持ちを何とか整理を付け、俺は雨が弱まった店外へと出た。


後日

「遊矢って……もしかして……もしかして!!」

『どうしたの柚子ちゃん。』

先日の不思議な事を話したら柚子が慌てて廊下に出ていった。

さて、なんだろうか。

私は次の講義があるから追いかけることはしなかった。

−−−−
……ありゃ?続く?