Incomplete

***


「なんでェ、この黒い物体は。誰か来たのか?」

 源外のじいさんが帰ってきたのは、お妙が何とか意識を取り戻した銀時を担いで連れ出した後だった。

 机の上に残された重箱の中をのぞき込んで、じーさんは顔をしかめる。

「……愛情料理、だとよ」
「愛情料理? これがか?」
「ああ。これが、愛情料理に見えるんだとよ」

 幸せな奴だろ、と呟くと、じーさんは笑った。

「違ェねえ」
「なァ、じーさん。俺の体はいつ治る?」
「ん? 急にどうした?」
「いや、ただ……」

 あの日、お妙は俺を泣いて拒んだ。あの時の俺はその理由がわからなかったが、今思えば簡単なことだ。俺の催眠波は、魂まで書き換えることは出来ないということなのだろう。

 俺は銀時を超えるために生まれた。
 だからこそ、魂は違う。
 魂に惹かれて恋をした奴らを、洗脳程度で誤魔化すことなど無理ということだ。

「ただ、俺にも……」

 魂は、俺にもあるだろうか。
 俺にも、そんな「不完全」を求めることは許されるだろうか。

「金時?」
「俺にも、愛情料理を作ってくれるような相手が欲しいなと思ってよ」

 源外はそれを聞くと、馬鹿みたいな大声で笑い飛ばしてくれた。

「……へへ、やっぱ無理だよな」
「馬鹿言え。んなもん、お前が望めばなんでも出来るに決まってらァ。俺が作ったカラクリには魂が宿る。カラクリが恋愛しちゃいけねえなんてお天道様だって言わねェよ」

 俺に向かってにっと笑って、奥で作業に取りかかるじーさんの背中をしばらく見つめてから、わずかに覗く夜空に目を移す。 


「……そーだな。ちげーねェ」
  


end





[*prev] [next#]



[ 4/4 ]


【戻る】 【top】

[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -