Incomplete
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「なんでェ、この黒い物体は。誰か来たのか?」
源外のじいさんが帰ってきたのは、お妙が何とか意識を取り戻した銀時を担いで連れ出した後だった。
机の上に残された重箱の中をのぞき込んで、じーさんは顔をしかめる。
「……愛情料理、だとよ」
「愛情料理? これがか?」
「ああ。これが、愛情料理に見えるんだとよ」
幸せな奴だろ、と呟くと、じーさんは笑った。
「違ェねえ」
「なァ、じーさん。俺の体はいつ治る?」
「ん? 急にどうした?」
「いや、ただ……」
あの日、お妙は俺を泣いて拒んだ。あの時の俺はその理由がわからなかったが、今思えば簡単なことだ。俺の催眠波は、魂まで書き換えることは出来ないということなのだろう。
俺は銀時を超えるために生まれた。
だからこそ、魂は違う。
魂に惹かれて恋をした奴らを、洗脳程度で誤魔化すことなど無理ということだ。
「ただ、俺にも……」
魂は、俺にもあるだろうか。
俺にも、そんな「不完全」を求めることは許されるだろうか。
「金時?」
「俺にも、愛情料理を作ってくれるような相手が欲しいなと思ってよ」
源外はそれを聞くと、馬鹿みたいな大声で笑い飛ばしてくれた。
「……へへ、やっぱ無理だよな」
「馬鹿言え。んなもん、お前が望めばなんでも出来るに決まってらァ。俺が作ったカラクリには魂が宿る。カラクリが恋愛しちゃいけねえなんてお天道様だって言わねェよ」
俺に向かってにっと笑って、奥で作業に取りかかるじーさんの背中をしばらく見つめてから、わずかに覗く夜空に目を移す。
「……そーだな。ちげーねェ」
end
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