15.意外な黒幕
「あー、おいしかったー!」
姉は両手を合わせてお辞儀をしました。本心から満足していそうな表情です。
一方のスレイは唖然となっていました。ゆっくり食べていたはずの姉が、てこずっていたザッハトルテをあっさりと片付けたためです。
『おめでとうございます、アイビスさんが一位です』
「―――え? 一位?」
ロボットの声が、夢心地の姉を現実へと回帰させました。
きょろきょろ、と辺りを見回し、
「そういえば……勝負だったんだっけ」
緊張感の欠片もない姉の一言。
―――ぶちっ。
スレイの理性の糸が切れました。
「ふ……、ふざけるな……! 私は認めんぞ!」
わなわなと震え、スレイが吼えました。
『まあまあ、スレイさん。落ち着きましょうよ』
「エルマ、私に意見するな!」
『でも、負けたのは事実ですし……』
「それは余計だ!」
なだめようとするロボットの言葉を片っ端からはねのけ、スレイはむきになって怒りまくります。既に他言無用状態です。
どうすればいいのか、元凶(?)である姉が困り果てていると。
「……こうなったら、真打ちに止めてもらいますか」
底抜けに明るい声が場を掌握しました。
言うまでもなく、セレーナです。
「じゃ、どうぞ〜」
扉の前に移動していたセレーナは、ゆっくりとドアノブを引きました。
その扉の先には―――
「ツ、ツグミ! フィリオ……!?」
別行動をとっていたはずの新婚夫婦がいました。
「アイビス、イルイ」
妻が笑顔で手を振り、夫は柔らかい微笑を浮かべています。
どうして、と姉は混乱しました。
あの家からここに戻るまでの到着が早すぎたためです。
あまりに不自然な点が、姉妹を混乱させます。
が。
「兄様!」
「………………はい?」
スレイの『兄発言』が、姉の思考回路を完璧にショートさせました。
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