14.お菓子は主食かもしれない女
「くっ………」
「けっこうきついわ……これ」
好調なペースだったスレイとセレーナ両名は、そろってうめき声をあげました。
それもそのはず、甘いものを大量に食べるのは体に悪いですし、口の中は糖分だらけ。舌がこれ以上の糖分を拒否していました。
しかも最後のケーキは半端ない甘さを誇っていたので、否が応でも拒否感が高まります。
そのケーキの名前は、ザッハトルテ。
「これ……甘すぎ……」
口を押さえたセレーナは、いまだ堂々と構えているザッハトルテを視界から外しました。
ちなみにザッハトルテとは、極道級に甘いチョコレート系ケーキのことです。
地の文を記している本人は見たこともなければ食べたこともありませんが、風の噂でそう聞いています。
それはともかく。
「くそっ、こんなところで……」
早食い勝負をけしかけた本人ですら、苦虫を潰したような表情で呟きます。ケーキの早食いがこんなにきついものとは思いもしなかったようでした。
―――あいつは?
ふと、スレイは姉の存在を思い出します。
今頃、どんなスローペースでケーキを攻略しているのかと横目で姉を確認し―――
「……なっ!?」
予想外の事態が、スレイの平静さを崩しました。
「♪」
幸福に包まれたような、姉のとろけそうな笑顔。
ほんわかとした空気と隠しきれない喜びでいっぱいです。
ですが、姉の前にある皿は綺麗に空となって重なっていました。
残るは、最後の難関ザッハトルテのみ。
それをいとも簡単に、ぱくぱくとほおばっていました。
「うっそぉ……」
呆気に取られる彼女たちすら眼中にない姉は、凄まじいマイペースで―――あっという間に平らげてしまいました。
『そこまで! この勝負、アイビスさんの勝ちーっ!』
ロボット審判が、勝負の終わりを告げました。
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