11.ゲスト登場
その後、スレイは勝負のルール説明をしました。
―――早食い勝負。
テーブル上に整列したケーキを10個食べ終えたら勝ち。ケーキは番号順に食べること。飲み物は水一杯分しか認めない。
「貴様が大の甘いもの好きだと、にい……風の便りで耳にしてな。機会が来たら勝負してやろうと思った」
どうだ、とスレイは胸をそらします。
学校以外でも姉と張り合いを見せようとしているのがみえみえです。
「でも、なんでアイビスが今日くるってわかったの?」
ですが、純粋すぎる妹のツッコミがスレイを『うっ』とひるませました。
いつ来るかもわからない相手に、なぜ大量のケーキを用意できたのか。
勝負してやろう、と前もって姉に告げていないのは確実です。
それが妹にとっての不可解な現象でした。
……そういえば、そうかも。
ケーキに気を取られていた姉も、ようやく『不可解すぎる準備のよさ』に違和感を覚えます。
じいっと見つめてくる姉妹の瞳に、スレイは耐えるように拳を握りしめ、
「と、とにかく勝負だ! わかったかアイビス!」
半ば逆ギレに近い言葉を吐き捨てて、手際良く用意されたイスにどかっと座ってしまいました。
これは、絶対何かある。
姉がそう確信し、
『スレイさん、失礼します』
甘い香りで溢れる室内に、可愛い機械合成音が届きました。
意外な乱入者に、姉妹は振り返ります。
部屋の出入り口。
そこに、ふわふわと浮遊するロボットがいました。
大きい瞳に、海の妖精を思わせる体型が愛嬌を誘っているかのようです。
……なにこれ?
姉と妹の謎が同調しました。
突然現れた、見たこともない高性能のロボット。
固まる姉妹をよそに、ロボットは驚くべき自律的思考でケーキ早食い勝負の舞台をちゃっちゃか整えていきます。
なんというか、家庭的用途に優れていました。
『準備完了しました』
「ご苦労、エルマ」
『どういたしまして』
スレイとロボットは簡潔に会話を終え、次に姉妹のそばまで寄ってきました。
『では、アイビスさん。心の準備はよろしいですか?』
「は……はい?」
姉の曖昧な返事を了承と受け止めたのか、ロボットは小さく頷き、
『わかりました。どうぞこちらへ』
ふよふよ、とロボットが姉の指定席に移動しました。
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