10.地獄と天国と極甘党と






ひとまずの形で『勝負』の件を了承し、姉妹はスレイの家にあげてもらえました。

見た目の小ささとは裏腹に、案内された一室は悠々自適に過ごせるスペースを持ち合わせています。

その空間を占めている物質が無ければ、でしたが。

―――甘い香り。
―――やわらかな空気。
―――心を癒やすかのような雰囲気。

それは時として安らぎを与え、また和やかな空間を瞬時にして作り上げる不思議な効果を生み出します。

が、大量にあれば、処理に困るモノでもありました。

「……これ、全部ケーキ……?」

妹がぽつりと感想を呟きました。

部屋に並べられたテーブル。
その上で隊列を組んだように、ケーキがずらりと輝いていました。

素人目でもわかる、一流の品格が漂う砂糖の塊。
ケーキバイキングを思わせる光景です。

甘いものが苦手な人には地獄のような場所と化すでしょうが、

「お……おいしそう……」

姉のような極甘党にはたまらない、まさに天から授かった至福そのものでした。

「―――ショートケーキ……チョコレートケーキ……シフォン……モンブラン……」

自分の立場を忘れた姉が、ふらふらとケーキに吸い寄せられていきます。

「待て、流星」
「スレイ……あんたけっこういい人だったんだね……」

嫌みなあだ名も右から左へ受け流し、姉の瞳が輝きを増していきます。

「だから待てと言っている!」

流石に平静を保てなくなったスレイが、ケーキに伸びた姉の手を軽く叩きました。





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