09.世間ではそれをムキになると言う
冷や汗が姉の頬を伝いました。苦笑すら浮かべられません。
犬猿の仲とまではいきませんが、スレイが嫌いな相手を休ませるような寛容な人物ではないと思ったからです。
しかし。
「疲れているようだな」
「え? あ、まあ……」
言い澱む姉に、スレイは上から目線で意外な一言を吐きました。
「―――どうだ、休んでいくか?」
一瞬の間を置き、姉は叫びました。
「え……ええっ!?」
ずざざざざっ!
姉は驚愕のあまり、後ずさりをしてしまいました。
まあ、今まで理由もなく敵対の眼差しを浴びていただけに、仕方のない反応かもしれません。
「どうした。意外か?」
スレイは姉を小馬鹿にするような含み笑いを浮かべています。
意外に決まっている。
そう言ってやりたいのを姉は我慢します。
休ませてもらうためには、失礼な態度を改めなければなりません。
逆に、スレイが本気で休ませてくれるのか不安もありました。
それを確かめるために、姉がスレイに問いかけます。
「……嘘じゃないよね?」
「ああ、そうだ」
抑揚のない、同意の声。
姉が安堵の息を漏らすには十分な威力を放ちましたが、
「だが、こちらの条件を飲んでもらう」
「条件……?」
スレイの更なる一言に身構えざるを得ませんでした。
一体どんな無理を言い出すのか。
姉は全身を緊張させ、
「私と勝負しろ」
「………………は?」
素っ頓狂な間抜け声が、森に響いていきました。
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