06.色んな意味で用意周到
時刻は既に昼時真っ只中。太陽がさんさんと照りつけています。
幸いにも水筒は持参していた姉でしたが、弁当は夫婦が担当していました。
そろそろ、姉の腹の虫が暴れ出しそうという頃合いにこの展開。
「そんなぁ……」
姉の膝が折れ、がくりと地面に両手をつきました。
2ちゃん用語で表現するなら『orz』状態です。
名所でいただくおいしい食事と妻特製のデザートが楽しみだっただけに、姉の落ち込みようと言ったら、可哀想すぎて目も当てられません。
「……アイビス、イルイ。先に、ここに行っててくれないかしら」
妻は真剣な表情で、妹に予備の地図とコンパスを渡しました。
「これは僕らの責任だ。急いで戻るから……いいね?」
そう一方的に言い残し、夫婦は来た道を戻っていきました。
「……ビス、アイビス」
妹の何度目かの呼びかけに、ようやく姉が反応しました。
「イルイ……」
姉がふらつきながらも立ち上がり、次の瞬間には『はっ』と我に返りました。
「ツグミと、フィリオは」
「さっき、お弁当を取りに……」
「……………………」
―――油断させた姉妹を、置き去り。
まさか、と姉の顔が曇りかけ、
「アイビス、これ」
妹から渡された地図とコンパスに目を見開きました。
しばらくの静寂。
鳥のさえずりと緑のざわめきだけが、黙する空間をなだめています。
姉はますますあの夫婦の真意がわからなくなってきました。
把握できていることと言えば、深夜の会議が行われていたという記憶。
深夜に話し合うのは会話の内容を聞かれたくなかった、という事しか浮かび上がりません。
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