05
何日も繰り返し見る、同じ夢。
あまり覚えていないけれど、話します。
女の子の夢。
女の子は、生まれたときから戦っていましたの。
流されるままに、流れに逆らうこともなく……ただそれだけのはずの存在。
そのはずでした。
女の子は出会いました。
女の子は少しずつ変わっていきました。
女の子に『願い』が生まれました。
変わって、でも。
女の子は、消えましたの……。
夫婦は黙って聞き入っていた。
ただ母親は一層強く少女を抱きしめ、父親は少女の肩に手を置いた。
「…………あなたは、あなたよ」
と、母親。
「……もう、泣かなくていい。……泣かなくていいんだ」
と、父親。
…………。
母親と父親の言葉に、少女は安堵感に包まれる。
わけもなく、想いが溢れていく。
私は、幸せ。
些細なことで、抱きしめてくれる人がいます。
こんなにも想ってくれる人が、います。
嬉しいです……。
幸せに包まれ、少女は不意に思い出した。
……今まで思い出せなかった夢の、最後の場面。
――『私』は消える。
――『私』は死ぬ。
それでも。
――また、会えたなら、
私は、今度こそ、二人の近くで笑っていたいですの……。
ああ、そうでした。
少女は思い出した。
女の子の最期の望みを。
……………望み。
ふと現実に戻ると、いまだに心配してくれている母親と父親の姿がある。
ありがとう。
ありがとう。
あなたたちのおかげで、『私』はここに……います。
少女は、心から。
二人に向けて、花が咲くような笑みを……
にっこりと、浮かべた。
『ありがとう。また会えましたね』
少女は、夢の中の女の子も、嬉しそうに笑っているような気がした……。
Fin.
[back] [next]