兄ちゃん、と体を揺さぶられた。
妹だ。カモメを頭に従えて、お気に入りの望遠鏡を握っている。
どうやらまた展望台で眠りこけていたらしい。
立ち上がり、うーんと背伸びをする。板の上で寝ていたから体の節々が痛い。
兄ちゃん、と呼ばれて向き直る。そこには望遠鏡を差し出す妹が。
誕生日おめでとう、兄ちゃん!
今日一日だけ、貸してあげるね!
妹らしい誕生日祝いに自然と顔が緩む。兄が海を眺めるのが好きだと分かっているからこそ、大切な大切な望遠鏡を貸してくれるのだ。嬉しくない理由がどこにある。
妹に急かされて海を眺めた。
そういえばどんな夢を視たんだっけ?
月が落ちてくる……だったかな? よく覚えてないけど、変な夢だった。月は夜空に浮かぶだけなのに不思議な話だ。
ふと思い立って蒼穹を眺める。きれいな蒼い空。黒い雲がないのは嬉しい。雷は嫌いだ。
兄ちゃん、あれ何だろう?
妹の催促に我に返り、望遠鏡を示された方角へ向ける。
あれは―――
暗転。
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