錆び付いた鉄の臭いが鼻を刺激した。ねっとりとまとわりつく空気に不快感が込み上がり、意識が無理矢理に覚醒させられる。
(…………)
暫くは霧がかったように思考がまとまらなかった。沸騰するような焦熱感が全身に浸透しており、床越しに伝わる冷たい感触が今は有り難かった。
ぼんやりと虚空を見つめる。
闇があった。
濃密な負の側面が凝縮させられた空間は、僅かに隙間から洩れだした暗い黄昏が全体の輪郭を浮き上がらせている。はっきりと意識が鮮明になり、回復と共に五感が正常に戻る。
檻の中、鎖で繋がれた黒毛の腕が―――、
『…………!!?』
驚愕が頭蓋骨を揺さぶる。
俺は、ようやっと自身に起きた“異常”を自覚する。
平穏な村の日常が一変する。
新たに紡がれるのは果たして一体何なのか―――。
『見ぃつけた!』
そして、序曲は奏でられた。
END.
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