03









―――雑音。

(……。約束って、何だ?
はっきりと思い出せない。知っているはずがない。)



―――反響。

知っている。
彼女との約束を。あの庭園で交わした想いを。共に国を守ろうと誓いあったことを。




―――雑音。

(……。『友』って、何だ?
はっきりと思い出せない。知っているはずがない。)



―――反響。

知っている。
かけがえのない存在を。大樹に託された妖精を。共に旅した大切な『友』を。




―――雑音。

(友を捜しに旅に出ることにした。もう一度会いたかった。かけがえのない『友』と話がしたかった―――待て。おかしい。これは、こんなこと、オレ……俺は“知らない”!)



得体の知れない何かと共鳴する寸前、自身の記憶との違和感を自覚し否定した刹那―――曖昧模糊な思考が沸騰した。

躯中の血が巡る箇所全体に耐え難い灼熱の岩漿が流れ込むような苦行。肉体と神経と精神が許容量を遥かに超える圧力で蹂躙され、苦痛のあまり意識が白海に投げ出される。

自我が千千に砕けるような衝撃の波に晒されながら、たった一欠片残された意志が白濁とする思考に透明な穴を穿つ。

……それは何もかもが不明瞭な空間において、たった一つだけ理解できたこと。

決して思い出してはいけないものであり、されど決して忘れてはならないもの―――完全な矛盾を内包する“それ”を呼び覚さまされた代償だと、本能的な部分で理解してしまった。

遥か遠くに残響する木霊が漣のように寄せては返し、連綿と紡がれてきた光の断片を浮き上がらせていく。



それは覚醒。
それは宿命。
それは廻る物語。
それは勇気の、ヒトカケラ……。



ああ、と吐息のように感得の言葉が漏れ出る。閃光が何もかもを吹き飛ばしていく最中、俺の無意識が空虚に呟いた。





始まったのだ。
―――全てが、始まる。








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