04





自問自答する事、数秒。
自分に喝を入れようとした寸前に、ゼルダ姫が凜とした言葉を発した。

「リンクなら何を願いますか?」
「へ?」

唐突な質問に、つい思わず素っ頓狂な生返事をしてしまった。これで正当な近衛兵が室内に控えていたならば『無礼な!』と怒鳴られ独房入りが確定してもおかしくない。非公式な対面だからこそ俺とゼルダ以外の人員はいないのだが、だからこそいたたまれなくなった。

慌てて姿勢を正し、質問に応えるべく喉に力を込めようとして―――本人を目の前にして、つまった。言えない、というより言えるのか俺は。

「……?」

傍目に百面相をしている俺を不思議そうに見つめる深海の瞳が直撃する。

落ち着け。冷静になれ。

俺は何とか理性の制御に専念し、内部に巣くう混乱を諫めた。一息をゆっくり吐き、俺は彼女に向き直る。

「願い事は、実はもう叶ってるんだ」

その言葉が意外だったのだろう。ゼルダ姫の目が瞬いた。

「それは…何なのですか?」
「世界が平和になって、のんびり牧童仕事に勤しんで、憧れのハイラル城の内部を事細かに眺めること」

指折り数えること立て続けに三つ。
俺の抱いていた願い事は、ここ最近ですっかり解消されているという本音を彼女に伝えた。

「だから今年の七夕に願うことは、無病息災だな」

今でも十二分に過ぎるほど贅沢だというのに、これ以上の望むのは野暮というものだ。俺は努めて明るく笑ってみせた。

しかし―――俺はこの時点で完璧に油断していたと言わざるを得なかった。

「……リンクらしいです」

くすり、と。

深窓の美姫として名高い彼女の美貌を飾る優美な唇の曲線が緩み、宝玉を宿した蒼の瞳が朝日に映る水面の如き輝きを放った。




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