02





一介の村人と国の王女。
一見、背後関係が全く見当たらない俺と彼女なのだが、これには俺の経歴が複雑怪奇に絡まった結果による関係だった。

俺が一体何をしたか、ということを直に語ればまともに受け取ってくれない人が大多数であろう。しかし信じられないことに―――俺がハイラルを救った勇者であることは事実だった。引退した今でも納得していない不本意な話ではあるが、悲しいかな事実無根の作り話ではないのだ。

ハイラルが崩壊しかけていたことを知らず、村の代表として献上品を渡す任を師から譲り受けた翌日。

唐突な影の襲撃に気絶した俺は状況に流されるままハイラルを彷徨い、その最中に―――幽閉されていたゼルダ姫と出逢った。

偶然か必然かは今となっても曖昧なのだが、それが原因となってゼルダ姫と知り合いになり今に至る。

こうして脅威が去った後に相棒が影の世界に“帰還”し、真実を知る者は俺とゼルダ姫の二人だけとなり、それからは真実を共有する者同士ということも手伝ってか何かと話を交わすことも多くなっていた。

こうして高級感溢れる空間に俺が鎮座しているのはこういった事情の積み重ねによるものである。

無論、村の皆や幼なじみには秘密にしている。今日は城下町への買い出しだと言い訳を残したが、本当は非公式に城に招かれたのが正解である。おかげでゼルダの信頼できる兵士の数人に顔を覚えられてしまったのが切ない。

まあ話したところで信じてもらえないような突拍子もない話であるが、もし幼なじみがこれを目の当たりにした場合を考えただけで容赦ない鉄拳制裁が飛ぶのが幻視できた。というか痛そうだ。マジで。

……それはともかく。

「なるほどな」

彼女が懇切丁寧に話してくれた『七夕』の概要を理解した俺は視線を窓の外へ移した。白亜の壁を切り取った向こう側に広がる、絵の具を散らしたような眩い蒼が世界の遥か果てまで覆い尽くしている。

この日は丁度、七夕に当たる日だそうだ。夜の帳が降りるまでは時間がかかりそうだが、今夜のハイラルは夜空を見上げる人々が大多数を占めるだろう。

「ささやかですが、とてもいい風習だと思います」
「だろうな」

俺はなるべく普段の口調で返した。



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