06





―――俺は旅を終え、光の勇者としての役目も終えた。

この事実を知る人々は、極僅か。ほとんどの人々は何も知らない。あの門番のように、平和に日々を過ごす城下町の人々のように。

極端に例えるならば――――光を奪われて魂になったこともわからなかったように。

『……俺は、俺に出来ることを実行しただけですよ、ゼルダ姫』

ゼルダ姫の意見通り、偉業かもしれない。平和を取り戻した勇者なのかもしれない。

だが、見返りを求めていたわけではない。

「いいえ、それでも私は……貴方に御礼を伝えたかった」



……ありがとう。



耳元に直接届いた甘い吐息は、俺の思考回路をショートさせた。

……。
……………。
………………………。

はっ、と我に返る。
今のは何だ、そうそうありがとうと言われたのだった。ハイラルの王女直々ありがとうと感謝されたのだ、庶民には荷が重すぎる程の褒美じゃないか。俺は贅沢者だ、そろそろ牧童に戻って仕事をしなければ。いやいや今狼だからまずはマスターソードのある古の森まで猛ダッシュ、待て待て城下町の外壁に置いてきぼりにしたエポナと合流しなくては…………

「リンク」
『なっ、なんでしょうかゼルダ姫!』
「今度から、私のことは『ゼルダ』とお呼びくださいな」
『承知致しました! …………って!?』

……俺は狼狽のあまり、迂闊な返答をしてしまったらしい。

よりによって『ハイラルの王女を呼び捨てても構わない』という了承をしてしまったのだから。

「それと、普段の口調でお話しください。無理に敬語を使われては貴方らしくもありません」
『でっ……ですが』
「お願いします」

ふっ、と現れた金糸と蒼い瞳が視線に絡みつく。

『………………わかったよ、ゼルダ』

ああ、負けた。

俺は本来の口調に戻る。一国の姫に対してこのような口調で語るのは――――ミドナ以来だ。

安堵の気持ちを彼女に抱く。

…………ようやく、安息の日を迎えたような気がした。



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