05
なぜゼルダ姫は俺を招いたのだろうか?
考えれば考えるほど目の前がくらくらと流転していく。
次第にゆっくりと視界が薄れてきた。
……どうやら精神的に疲労してきたらしい。揺らぐ景色、まとまらない思考。マズい、舟を漕ぎ始めている……。
疲労という名の睡魔が俺を闇に招き始めた。
…………………………。
いや待て寝るな、このまま寝たらゼルダ姫の目的が理解できないままだ。
急激な負荷をぐっとこらえ、俺は重たい瞼に命令を叩き込む。開け、そして前を見ろ。
俺は拡散しかけた意識に覚醒を促し、言葉を紡ぐ決意を固めた。
わからないなら聞くまでだ。
『ゼルダ姫』
「……なんでしょうか、リンク?」
頭上から凛とした声が降る。撫でるリズムが僅かにぶれた。
『無礼を承知の上でお聞き致します』
一旦前置きした俺は、
『……なぜ、俺を招いたのですか?』
単刀直入に尋ねた。
ゼルダ姫の指がピクリと跳ねる。
うつ伏せの状態では表情が見えないので、ゼルダ姫の様子をうかがうことはできない。
時間が静止したような錯覚。
気まずい、と思った瞬間。
「…………ありがとうございます」
『は?』
まったく繋がらない会話に、俺は立場を忘れて思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
ゼルダ姫は続けて語る。
「光と影の世界の救済。魔王の打倒。このハイラルの復興の協力……。これらは貴方が為してきた偉業です」
……偉業?
ゼルダ姫が述べた、俺の旅の通過点。
偉業、だったのだろうか?
当初の俺は状況に流され、そして意志を固めた。一個人として、可能な限りの闘いをしただけだ。
「本来ならば貴方は歴史に残るほどの勇者の証を示しています。ですが、貴方は……」
柔らかな声のトーンが若干暗くなった。
…………ゼルダ姫の意図が、少しだけわかったような気がする。
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