『お茶会の主の微睡み』



・没ネタになったものを無理に昇華
・何度も使用する並行世界、パラレル設定
・ゼルダは料理上手
・いつの間に寝たの?というツッコミ禁止←





―――ハイラル城。

一度は魔王によって崩壊した王の城だが、復興を果たして早数ヶ月。

各地から集まった意匠の豪腕によって再興された芸術的な造りは、未だに新品同様の白銀の輝きが健在であり民の自慢でもある。

平和に染まった歴史において、平和の象徴に数えられる一つの要因だ。

かつて影の領域に浸食された光景は微塵もなく、おどろおどろしく暗すぎた雰囲気などは完全に払拭されている。窓の外は黄昏の黒雲時々雨、化け物注意報なんて最悪の予報も流れない。

まして、この装飾華美かつ高級感丸出しの空間にそんな暗いモンがあってたまるか。

……まあ、俺のような田舎者がこんな気品漂う部屋にお邪魔していること事態は確実に場違いだと自覚しているがな。

「…リンク…」

空気中に澄んだ音が鳴った。
慣れたとはいえ、何度聴いても心地よい声音に俺の陰鬱とした何かが吹っ飛んだ気分だ。というより、彼女が俺の名前を奏でた事実がこの上なく心臓の鼓動を速めていく。待て、落ち着けよ俺。まずは深呼吸だ。鼻から吸って、ゆっくりと吐い……

―――ぎゅっ。

姫君の折れそうな細い腕が俺の左袖をつまんだ。幼い子供のようなそれに俺の思考が活動停止に追い込まれ、しかし踏みとどまった。

とりあえず俺は高級そうなふかふかソファーに慎重に背を預け、彼女の安定を保つ努力をした。といってもこの状況は変わらないままなのだが。

……何でこうなったんだ……?

俺は状況打破のために鍛えられた五感が告げる現在の感覚を思考に並べてみた。

耳元で繰り返される穏やかな呼吸音。側頭部にかかる艶やかな金糸。鼻孔をくすぐる特有の甘い香り。肩にかかる柔らかい重み。

……逆に思考の糸口が混線してきた。というか近い。限りなく近い。むしろ密着しているよな、これは。

あー、つまり。その。なんだ。

俺はこと細かに回想することで理性を保とうとした。

まず俺はゼルダに招かれて彼女の自室に赴いた。
狼ではなく、正式に『トアル村の使者として』招かれたな。これはまだいい。

で、ゼルダの自室に案内されてお茶会が開催された。俺は甘い香りと仄かな安らぎの空間に癒された。何かが若干ズレてきたような気がするが、これもまだ許せる状況だ。

それからゼルダ姫とトアル村の使者という対面でソファーに腰掛けてお互いの近況を語り合った。既に会見の目的が違う方向に傾いてほのぼのとしてきたが、これもおそらく許容範囲内だな。

……そしてゼルダが俺にもたれかかって眠りについてしまったという、人生最大最高の危機に直面しているわけである。これにて回想終了。

………………。

ゼルダも普段の執務の疲労が溜まっていたのかもしれない。そう考えると俺の肩を枕に安眠しきった彼女の目覚めを促すわけにもいかず、俺はただのぼせあがりそうな熱さに耐えるばかりだった。部屋の空気は涼やかなのだが何故このように体の芯が沸騰するのかが謎である。

この場面をイリアが目視したならば鉄拳制裁もとい落雷のごとき説教が俺に降りかかるであろうが、当の本人は遥か遠いトアル村でのんびりとしていることだろう。

ゼルダ姫は完璧に夢の彼方に旅立ってしまっている。

しかもそれを指摘する他人はいない。ハイラル王国王女の数少ない休日中の私室に、気軽に足を運ぶような者が果たして存在するのだろうか。

正直助けてくれと願う一方で誰かにこのような光景を見られたらと考えただけで恐怖のどん底に叩き落とされる心地だ。

状況打破はただ一つ、ゼルダの仮眠が終わることなのだ。

……完全に熟睡されているからして時間はまだまだかかりそうだがな……。

俺は時間の経過と共にぼーっと熱くなるのを感じながら、空間に充満した静寂を堪能する他無かった。断じて動けない。彼女の規則正しい呼吸音を乱してはならない。

だが、不思議に苦痛ではなかった。むしろ逆だ。俺も安らかな気持ちで静寂に身を預けているのである。僅かに嗅覚をくすぐる甘い芳香のせいかもしれない。お茶会の名残である紅茶の心地よい香りは、姫君直々に淹れてくれた天下一品の代物を連想させるに充分な威力が込められていた。

……美味かったな、あの紅茶。

ハイラル王国の姫君ならではの気品漂う礼儀作法に釘付けにならない者はいないだろう。思い返す対談に顔の筋肉が緩む。

何気ないトアル村の日常を語った時のゼルダの柔和な微笑は、俺の記憶にはっきりと焼き付けられている。

……ゼルダはしっかり役目を果たしているんだよな。

俺は意識を彼女に合わせた。華奢な躯体でありながら強烈な力に屈せず、しかし現在、無防備な姿を俺に晒している姫君。無理をしても誰にも弱音を吐かない芯の強さを持ちながら、俺だけに心を開いている現実。

何故か、心臓が跳ねた。

一刻も早く目覚めてほしいと思っていたが―――何故だろう。

今はまだ。

甘い幻想の空間で眠り続けてほしい―――そんな一文が脳裏を掠めて、消えた。





あとがき?

実はこれ、企画小説のリンゼル初期案でした。ラブラブ=くっつけてしまえ!という単純な理屈でこんなことに。

ですが書いていくうちに、これラブラブ違くね?と疑問に思い見事に没ネタ行きへ。

というか『grape!』のリンクはヘタレなのでこのまま進展しなさそうだs(ry

では、ここまで読んでくださりありがとうございました!




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