03
このことはみんなには内緒にしている。文通の相手がバレたら説明が難しいうえに、ゼルダ姫に迷惑がかかる。
…………イリアにバレたらとんでもない事件に発展しそうだしな。
はあ、と溜め息が漏れた。
「……どうしました?」
撫でられていた感触が一時的に中断され、繊細な腕が頭部に置き去りにされている。ゼルダ姫の体温が直に伝わってきた。
唐突な変化に内心驚いたものの、顔は平常心を繕えた。
『いえ……見慣れない場所に少し戸惑ってしまいまして』
「何度も作業を手伝ってくださったのに?」
くすくす、とゼルダ姫が笑い声を漏らす。
……無難に『なんでもない』と答えなくて正解だった。
聡明なゼルダ姫の前では即座に嘘だと見抜かれていたに違いない。まあさっきの言葉も嘘なんだが、本心も混ざっていたので問題なかったようだ。おそらく。
当のゼルダ姫はまた俺を撫でる作業を開始した。
ふわり、と優しい感触に目を細めてしまう。
正直に言うと心地よい。
……というのは狼として嬉しいことなのか人間として落ち込んでいいのか迷うところではあるが。
まあそれはともかく。
……そういえば、なぜゼルダ姫は庶民の俺を復興したばかりのハイラル城に招いたんだ?
再度浮かんできた疑問に頭を捻る。
ふと、昨日届いた手紙の内容の一部分が脳内に浮き出てきた。
『ハイラル城の復興がようやく成りました。機会があれば是非お越しください』
簡潔に言えばこんな内容だったと思う。
綺麗な文字と文体があっさり庶民を招く提案をしていたので目を丸くした覚えがあるな。
そうそう、それで姫直々の『お誘い』に焦った俺は無理矢理有休を取ってハイラル城に駆けつけたのだ。
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