2/14『valentine day当日・とある青年の日記』





今日はとても長閑な空気がトアル村を包んでいた。
空は快晴、まったくもって清々しい青が世界を見下ろしている。仕事のしがいがあるというものだ。

というわけで日常生活を営むべく俺の牧童仕事は平和に開始された。
薪を集め山羊たちの世話を焼きエポナと牧場を駆け回る。これこそ俺の求めた生活そのもの、充実した1日だ。

そうそう、今日は珍しくイリアと昼飯を共にしなかった。

その真相は夕方で判明したが、あの昼間の会話が日常に組み込まれていただけあって少し物足りなさを覚えたな。
あのお節介が俺の平凡さに刺激を与えていると思う反面、もう少し接し方を改めて考えてくれないものかとも思う。
そろそろ俺も成人なのだから、少しは俺の生活面を信用してくれ。

話を戻す。
夕方、村長宅の夕食に招かれた。
部屋を充満する甘い香りに思わず脱帽したね。

なんだこのチョコレートの香りは。チョコ菓子を運ぶ幼なじみに尋ねた俺だったが、イリアはごく自然に「今日はバレンタインなのよ」と答えた。

……バレンタインって何なんだ?

聞くところによると遠い国の風習を真似てみたらしい。……遠い国の風習、ってどこかで聞いたような……?

それはともかく、何でも今日この日はお世話をしている人にチョコレート菓子を振る舞って、1ヶ月後に三倍返しを要求するというとんでもないイベントだった。

しかしイリアはただ単に、夕食にチョコレート菓子が面白そうだ、という理由で即実行しただけらしい。深い意味は無いとイリアは語った。
一瞬、俺と村長の視線が交錯したのはお互いの無事と安堵のせいだろう。流石に三倍返しは金銭的にきつい。

しかしバレンタインという知識をどこから仕入れてきたのやら。イリアは語ってはくれなかったが、いずれにしても気にしないことが最善の選択のような気がする。




……そうそう、夜中に訪ねてきた手紙配達人にも度肝を抜かれたな。白い歯を輝かせての解説は余計なサービスだったが、どうやら緊急速達便とのことで、あのハイラル平原を1日かけて横断したらしい。駆け足で。こいつの体力は不死身の領域に達しているのか?

話が逸れた。

その速達便によって届けられた荷物は、またしてもチョコレート菓子だった。箱の中はひんやりとした冷気に包まれ、中身が溶けていなかったのが幸いだ。

シンプルな飾り付けの菓子は空腹時ならば胃袋に直行するだけの誘惑を放っていたが、如何せん夕食のチョコ尽くしに辟易していただけにタイミングが悪いとしかコメントのしようがない。

だが、それ以上に送り主の名前がタイミングの悪さを跳ね返した。

彼女だ。この日記が誰に見られているかわからないので本名を記載することは出来ないが、紛れもなく彼女だった。

添付された手紙によると『遠い国の風習で今日はバレンタインデーなので作ってみました』と短く綺麗な文字が載っていた。

なんてこった、彼女もバレンタインに便乗してチョコレート菓子をプレゼントしてくれたのだ。しかも手作りである。

どうやって仕事の合間を縫って作成したのかはさておき、俺は決断を迫られていた。

チョコレートを食うか保留にすべきか。

保留したらチョコレートの品質が落ちる。というわけで俺は迷わず、今この日記を書いている間にチョコレートを食っている。
舌が美味いと絶賛していたがチョコレートの味に慣れすぎて気分が優れないという複雑な心境だ。俺はチョコレートに呪われているのだろうか?
だが彼女の気持ちが嬉しいのでよしとする。



あとで彼女にお礼と感謝の手紙を書くと決めた。イリアには1ヶ月後に俺の手料理を久しぶりに披露するとしよう。

まあ、こんな日も悪くないな。






あとがき。

会話文のみで作成しようとしたらものの見事に失敗し、変な日記を書かせてしまったナナシです。何かもう色々とスミマセン。

ちなみに失敗案がこれ↓

「リンク、起きなさい!」
「…………」
「起きなさいッ!!」
「ぐはっ!?」
「まったく、いつになったら自分で起きるのかしら」
「無理矢理起こすな! 死ぬかと思ったぞ!」
「そう簡単に死ぬような体じゃないでしょ」
(……いや、意識が花畑に案内されかけたほどの衝撃があったんだが……)
「何か言った?」
「いや何でも」

バレンタインの甘さもないギャグが初っ端から開始です。
『grape!』のリンクは夢の内容によっては寝坊常習犯になりますが、いくらなんでもバレンタインにこれはないだろうとノリツッコミしました。この話に甘さがあるのかどうかも微妙ですが…orz


では、ここまで読んでくださりありがとうございました!




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