02
経験者の立場から断言しよう、間違いなく照れている証である。その反動で言葉に棘が入ってしまっているだけなのだと。
対極な二人に感慨を抱いている俺だったが、白い浮遊物体がすうっと姿を現したことで思考の海から解放された。ようやくお出ましか。
「申し訳ない妖精の姫君。少々趣味が併発した事情が重なったこともあって数日で終了する予定が大幅に変更せざるを得なくなり、一ヵ月延長させてしまった。だからこそ転移時の安定性を強化、向上させアルバイト及び乱闘に参加した謝礼も弾んだのだがお気に召さなかったかな?」
「お前の場合は趣味じゃなくて悪癖だろうが、うっかり創造神」
偉そうに言い訳を垂れる白い手袋―――マスターハンドに俺はすかさずツッコんだ。というより勝手に口が滑ったというべきか。メンバーの代表としての責任も少なからず理由の一部にあるだろう。そう考えるやいなや、俺は思わず溜め息を漏らしていた。こいつは反省というものを知ることはないのだろう。
―――きっかけはアレディの申し出だった。
異世界の予期せぬトラブルが起因となってこちら側に飛ばされた来訪者であるアレディとネージュ。
原因が原因なだけあり、当初は単なるイレギュラーとしか認識されていなかった。
その来訪者という特殊な立場上、致し方なくアルバイトとしてスマッシュブラザーズに居候する形に収まったのは当然だった。マスターハンドの招いた英雄ではないのだから、力量を競う乱闘騒ぎに巻き込んでしまうわけにはいかないのである。
ところがアルバイトだけでは修練にならない、と己に苦行を課すアレディが乱闘への参加をマスターに願い出たのである。
最初こそは渋ったマスターだったのだが、鍛え上げられた身体能力と錬磨に錬磨を重ねた武技に興味を惹かれたのか乱闘への参加を許可。
すると意外にも英雄と呼ばれた面々を凌ぐ実力の持ち主だったことが判明し、更にアレディを心配したネージュまでが参戦。これがまた優れた槍術と魔法の使い手という事実が発覚してしまったのだ。
これを目の当たりにした究極の好奇心の塊であるマスターハンドの悪癖が何を忘れたのかは言うまでもないだろう。
―――それまで行っていた帰還への道筋を探す作業はどこへやら、である。
すっかり異世界の二人組への関心を抱いてしまい、その結果が予定を大幅に狂わせてしまい帰還時間が延びたのだった。
一度何かに没頭すると他の事象をほったらかしにする創造神の忘却癖が発動してしまったがゆえのツッコミだと解釈してほしい。つーか情けないぞ創造神のクセに。
俺とまったくの同意見だったのかネージュが柳眉を逆八の字に吊り上げ、びしりと細い指先をマスターに突きつけた。
「その通りですこと。私の城は現在進行形でドッ建て直し中ですのに、1ヶ月もロスしてしまいました」
「だからこそ謝礼を弾んだのだが……」
「それはそれ、これはこれです。愚痴くらい当てても宜しいでしょう?」
うっ、とマスターハンドが後ずさるような仕草をした。巨大な右手だというのに器用な反応である。
と、そこでアレディが不思議そうに声を上げた。
「ですがネージュ姫殿、確か昨夜は別れが惜しいからと言って私の部屋に参られたではありませんか?」
………………。
瞬間、『しーん…』とした静寂が訪れた。
「? 皆さん、如何されたのですか?」
「よ、余計なことは言わなくていいのよアレディ!」
ああこれがいわゆる墓穴を掘るってヤツか。
アレディの天然っぷりによって暴露された本心を取り繕うように慌てふためくネージュの構図は、あっという間にメンバーの空気を和ませていった。微笑ましい墓穴だなこれは。それにこの二人……無意識に惹き合っているだけに、この先上手くやっていけそうだと感じている。
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