04.紅の修羅
口を開けば修練に繋がる言動が目立ち、何時いかなる場合でも戦闘態勢に突入することを念頭に置き、己を極限に鍛えることで強く在ろうとする。
言葉にした約束は真摯に守る反面、自分の命を軽視する傾向ゆえに、逆にこちらが心配になってしまうのだ。
それこそネージュがアレディと出会った当初、傍目にも怪我をしているというのに無表情な面が張り付いた姿があまりにも痛々しく、彼女の怒りが爆発したことさえあった。
まさしくこれがきっかけだったのだろう。気がつけば何度も何度もアレディの無関心な面に対して注意を重ねるようになったネージュは、いつしか彼の信頼を無意識に獲得していたのである。
―――だから大勢で行きたかったのに。
出立の前に、ネージュはシンディに護衛の条件を告げた。
頼れる感じのお兄さん。
無口で憂いを秘めている。
ちょっと可愛い弟。
この中に一人でもアレディが当てはまれば道中を楽しく過ごせるはずだ、と。彼女はそう考えて条件を出したのだが―――実はアレディがその全てに該当するというのは流石に予想の範囲外だっただろう。
確かに彼の師であるシンディ・バードの指摘通り、彼は青年でありながら未熟かつ修練に行き詰まって己の限界に憂うこともある。年齢は十七、ネージュにとってはまさに弟くらいだ。加えてお互いが抱く信頼関係も申し分ないうえに、精悍に整った顔はネージュの要望を余すところなく、ぴたりと当てはまっていた。
つまりはアレディとネージュの二人きりの旅になってしまったのである。
「アレディ」
ついに我慢ならなくなったネージュが呼び止めると、彼の歩調が即座に静止した。そのまま半身で振り返り、真っ直ぐな碧の瞳がネージュを射抜く。
「如何なされたのですか、ネージュ姫殿?」
何の疑いも持たない純粋な眼差しに、うっとネージュはたじろいだ。
アレディは真の意味で芯の通った性格をしており、例えるならば主人の命令を待つ軍用犬である。一度油断すると頭にふさふさとした犬耳が幻視しかけたこともあるネージュは頬に赤みが差すのを自覚し、アレディの視線に映らないよう僅かに顔の角度を変えた。
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