03.不満と護衛
妖精族が原因不明の転移に巻き込まれ、またしても予期せぬ瞬転を重ねた果てに辿り着いた世界。未知なる大地に修羅の面々が警戒心を抱く中、妖精族の一部は驚愕に彩られていた。
―――『エンドレス・フロンティア』。
妖精族の故郷たる地であり、そして波国が飛ばされた世界にその相似性が見受けられた。
そして決定的な証拠が、かの“十年戦争”の負の記憶に基づく巨大戦車『ジャイアント・マーカス号』が発見されたことである。
信頼関係にある紅の修羅と共に周辺の偵察に出たネージュが、はっきりとその戦車が横行する様を目にしたのだ。
フォルミッドヘイムから一方的な宣戦布告を受けた戦時中、侵略兵器として妖精族に苦戦を強いた超ド級猫型戦車の姿をネージュが見間違えるはずがない。不思議そうに自分を見やる青年を尻目に、彼女は酷く動揺したのだ。
ここは故郷ではないか? ―――と。
もし、この未知なる世界が『エンドレス・フロンティア』ならば―――ネージュは帰還を果たさなければならない。同様にミルトカイル石に覆われた自分の国、エスピナ城の現状を確認することも必然の理だった。
彼女はエルフェテイルの妖精族の姫としての責務を十二分にわきまえていたのである。
…………つまり、本来であれば王族に連なる彼女は護衛に囲まれて安全安心快適な旅をする予定、だった。
そう、過去形である。
ネージュの身辺の危機を振り払う役を任ぜられたのは―――紅の修羅ただ一人。
今もこうして先陣を買って出て、周囲の索敵に意識を集中させている青年の愚直さはネージュの不満をより一層煽り立てた。
彼の名はアレディ・ナアシュ。
齢十七でありながら機神拳と覇皇拳の達人でもある。
羅刹機アルクオンの捜索も担う彼は黙々と前進し、しかしその後ろ姿は彼女を絶対的に守ることを中心としているかのようである。護衛として忠実かつ真剣そのものの在り方を語らずとも行動で示していた。
しかし。
(ああ、このもどかしさといったら!)
―――だからこそネージュは不満なのだった。
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