スネークを探せ!
拍手お礼・スマブラX
『スネークを探せ!』
「というわけで、治安の良い国の公立学校に必ず付随するであろう、そこそこ普通の広さを誇るような体育館に整列したダンボールの中に、お馴染みのクセによって我が身を隠したスネークを探し出してくれたまえ」
見た目が巨大な白い手袋の創造神は体育館の中央で物理法則を色々と無視し、ふわふわと浮いたままに何とも長い前口上をメンバーに言い切ってみせた。
「いや待て。何でそんなどうでもいい事柄のために緊急事態放送を脳内で鳴らしまくった理由を教えてくれ」
つい思わず、俺はこの場全員の疑問を代表してツッコんだ。当然の反応だろ、これは流石に。
様々なプライベートタイムを過ごしていた俺たちが何故このような創造神の気まぐれによるゲームもどきのために無理矢理召集され、なおかつ付き合わされなければならないのか。場合によってはマスターソードを用いて殴り倒してやらなければ気がすまない。
しかしマスターハンドはやれやれと手を振ってみせた。顔が無い分、随分と大仰な動作である。
「良い質問だな、光の勇者。だが事情が事情なのだ。この世界の枠の外、そこで私たちに応援の意味合いをくれた彼もしくは彼女らに敬意を払う通過儀礼だと思ってくれないだろうか」
余計に意味がわかりません。
というか説明にもなっていない。そもそも応援って何だ? 乱闘の歓声のようなものだろうか…。
うーん、と俺は悩む。が、その時間はマスターに言動の余裕を与えてしまった。
「では早速スネークを探してくれ。時間は限られていないが都合により行数の余裕はないからな。追加事項だがルカリオ君のような念視、その他諸々の特殊能力はフェアではないという理由により、済まないが封印させてもらった。存分に自力を発揮させ、頑張ってほしい。見事探し当てた者には次回の乱闘にスマッシュボールの使用権を進呈するので十二分に楽しんでくれ」
……メリットが大きいこの提案にわざわざ自分から反対する者はおらず、かくしてダンボールを巡ってメンバーたちはゲームに参加した。
スマッシュボールに食らいついた面々の行動は実に迅速だった。かくいう俺もその一人である。戦闘において有利な条件があればそれだけ戦略の幅も広がるのだ。負けてはいられない。
……そういえば、あいつらは今頃どこに?
ふと思い浮かんだ王子と傭兵団長のコンビを探す。蒼がよく似合う二人の剣士は……。
と、俺は一瞬目を疑った。
待て。あいつら、一緒にダンボールを切り刻みにしつつ探索続行してやがる。
マルスは軽い剣裁きを披露するかのような動作でダンボールを微塵切り、アイクにいたってはモロに突き刺している。中身がどうなってもいいのかお前ら。
「……肉はないのか」
「アイク、スネーク探しだってこと忘れてないかい?」
……。
辛うじて、色々と言いたい衝動は抑えた。とりあえず無視しよう。
スネークの安否が気になりつつも、俺は地道にダンボールをひっくり返していった。周辺を見渡せば大抵の者がこの方法を取っていた……が。
「あら、ボム兵さん」
ピーチ姫が持ち上げたダンボールの下に罠とも呼ぶべきハズレが待ち受けていた、って危なっ…!
「ピーチ姫!」
爆発と閃光がピーチ姫に襲いかかる直前―――赤い色の配管工が彼女を突き飛ばし、代わりに吹っ飛んだ。
「兄さーん!」
「ガハハハ! 今回は我が輩の勝ちだ、な…」
ライバルを笑い飛ばした亀魔王の勝ち誇った口調が萎んだ。
なんだ、と思っていたが突如として発生した『どーん』という轟音により結論は刹那的に悟れた。あー、因果応報ってヤツかもしれない。
一方では子供たちが和気あいあいと、大量のダンボールに群がっていた。アイスクライマーと超能力者二人、トゥーンの5人だ。
わーきゃーと騒ぐあたり、中々に楽しんでいるようだ。不意にトアル村の子供たちの姿が視界に被り、ゲーム中だというのに苦笑する。
「見つからないね、ナナ」
「そうだね、ポポ」
「よっ…と。残念、ハリセンだった。ホームランバットなら良かったなー」
「ネス君らしいね…。あ、ハートの器だ」
「え? ってリュカ、いいなそれ!」
端から見てものほほんとした光景だ。ハズレさえ引かなければいいが…まあ大丈夫だろう。
「ぽよ…」
…………ん?
俺はいつになく気落ちしている特有の言葉に耳を傾けた。振り返ってみると、ダンボールの上にちょこんと座って元気のないピンク玉がいる。
やけに落ち込んだ可愛い瞳の眼下、そこで一頭身の凄腕剣士のメタナイトがしょんぼりとしたカービィを必死に励ましていた。
「カービィ、気にするな。吸い込みを封じられたからとて、今後も使用不可になる事態にはならない」
「ぽよ…ぽよよ」
「……何? だから今回は大人しくすると言うのか…。了解した。ならば、私も付き合おう」
「ぽよ!」
カービィ語を唯一翻訳できる仮面の騎士の器の大きさが一瞬伺えた。
……と思ったが、自称カービィのライバルというよりは既に保護者のように感じたのは気のせいではあるまい。
ひとまずリタイヤ組決定した星の戦士たちを横目で眺めていると、その上空を純白の天使が横切っていった。
「うーん、見つからないなぁ」
きょろきょろと下方を捜索しているピットだが、ダンボールをひっくり返さなければ中身がわからないということに気がついていないようである。
うんうん唸りながら宙に浮く姿が不憫に思えたが、それはそれ。自分で答えを得るまで放っておこう。
さて。俺も頑張るか。
俺は次々とダンボールを投げていった。メンバーたちの奮闘により、ぱっと見ても半分は刈り尽くされたダンボールの山(一部残骸)が俺のやる気を増長させる。やるからには勝たないとな。
……と、気合いを入れたその時だ。
「……こちらスネーク。ポケモントレーナーに発見された」
全員が全員、渋い声の持ち主と自分でも意外そうに呆気に取られている―――ポケモントレーナーに視線を集中させた。まさにこれこそ時の運、ポケモンに頼らず自力で見つけてしまった本人が驚きの色を隠せずにダンボールを持ち上げた姿勢で立ち尽くしている。
……。意外に早かったな、終わるのが。
かくして、スネーク探しゲームは幕を閉じ、スマッシュボールは見事にポケモントレーナーに授与された。
全てが思惑通りなのか、創造神の機嫌は良好である。やれやれ、傍迷惑な神だな。
……何かがちぐはぐで、かつ混沌としていたゲーム。
負けたことは悔しいが、やけにすっきりとした気分だ。やり遂げた感が心中に吹き抜ける。
…………。
何故だろう。
声を大にして、ある一言を告げたくなった。
俺は体育館の向こう側、晴れ渡った空に向けて言葉を発した。
「―――ありがとう」
END.
グダグダにも程がある話でした。メンバー全員出そうと思ったんですが、拍手の行数がとんでもないことになりそうだったのでやむなく断念。正直に言えばサム姐さんとピカチュウ、姫と勇者の絡みが書きたかったです。
では、拍手ありがとうございました!
2009.07/13
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