勇者のなんでも相談室 part3









…………ぬぅん。





・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・



短かった。
非常に長くも短い会話だった、色んな意味で。

俺は、両腕を組んで生真面目に思い悩む剛の蒼剣士に向かって、肺に溜まる空気の全てを押し出すような酷く重量感ある溜め息を吐いた。

いやこいつは一体何をしに来たんだろうか。

貴重な休養日を趣味である釣りに費やすかと考え心待ちにしていた俺を崖から突き落としかねないタイミングで、またしても唐突かつ無礼講なまでに部屋に乗り込んできた奴がここに一人。

はっきり言って見計らったような間の悪さは創造神の狙い通りなのではないかとつくづく感じてしまう。まあ以前に憂さ晴らしと代償を求めてタコ殴りにしてやったのだが、もうメンバー達は相談係として認識してしまっただけに後の祭りというものだ。

まあ近いうちに、このフラストレーションを創造神にぶつけるとして、だ。

幾度も乱闘を重ね、剣士として敬意に値する人物―――アイク。お互いに尊敬し、敵対し、協力し、剣士の絆とも呼ぶべき繋がりを形成してきた。

そのような人物がやけに神妙な顔つきで俺を見据える姿は「釣りに行くからさっさと帰れ」と追い返すにも躊躇いが勝り、結局面を合わせて椅子に座ること早数十分。正直耐え難い。

空気の沈黙加減と休日の時間の浪費が精神的に如何に堪えたか言わずもがなである。これでも短気な部類に入る俺としては譲歩した結果であり、もういい加減会話の糸口を見つけないと即刻立ち去りたい気分だ。ああ釣りが逃げていく。

せめて何か一言、と求めたらお馴染みのアレを唸ったのみ。一言ですらないんだが。というか本当に目的が意味不明すぎてそろそろ堪忍袋の緒が切れそうであった。

あー、埒があかない。

状況を打開すべく、俺は制限をかけていた口の解放を命じた。

「アイク」

無言。ああそうかい。

そういえばこいつは無口寄りの不器用な言い回ししかできない無難な人物だった。妥協案は無我の境地にでもほっぽりだして、俺の趣味の時間を確保するとしよう。天気は快晴だ、このままだと日が暮れてしまう。

「何もないなら行くが」
「……あるんだが、言えん」

意味がわからん。
そう一蹴してやりたいのを辛うじて―――怒りの坩堝へ投入したいのを懸命に敬意で押し留めて―――冷静に思考を巡らせた。

用があって来たはいいが、言うべき事柄に支障があった?

それについて相談に来たが、秘密の類に引っかかってしまい、しかも本人は義に厚い愚直なまでの真面目人間かつ自覚ありの口下手である。よってこのような痛い静寂を招いたことに内心葛藤していたのではないだろうか。

…………まったくもって不器用すぎる。

「せめて何か言ってもらえないか? でないと俺も判断できない」
「……。実は友人が困っているのだが……」

ようやく重い口を開いたと思えば、アイクらしい悩みだった。適当に相槌を打ちつつ、内心納得する。

言いにくそうだった、というか言えない事情だったことが伺えたのだ。自分ではなく友人の悩みならばこれは慎重にもなる。アイクの性格上、こういった事態を招いたのだ。

俺は気を引き締めて相談の聴き手を心掛け―――

「その友人は正義でも悪でもなく、ちびっ子のためだけに存在するちびっ子だけの味方を兼任しているのだが、どうにも周囲には不審がられた挙げ句にカー……いや食いしん坊な子供の一人にじゃれつかれている最中に頭……ではなくシンボルマークを食べかけられ、少し気落ちしている。子供の注意を逸らしたいそうなのだが、何かいい方法はないだろうか?」

……………………。

本人は至って真剣だった。
馬鹿馬鹿しいまでに真面目一徹だった。

だからこそ“アホ”すぎて拳がぷるぷると震えた。

俺の名誉の為に言わせてもらうが決して怒りや笑いをこらえているわけではない。

では一体何か?
答えは即ツッコミである。
アホかと言ってやりたいが相談という手前、これは只の罵倒になってしまう。

荒れ狂う心中の整理を何とか終わらせ、顔を上げた。

「アイク」
「……?」

俺は大きな息を吐き、覚悟を決めて一言。

「ドーナツ頭を隠しきれていない時点で気付け」



END?



あとがきのような呟き。

そんなこんなで1ヶ月放置してしまいすみませんでしたナナシです。妄想だけは充実しているのに早くもこんな期間が過ぎて内心ミイラになっております。

とりあえず某パンヒーローから思いついたネタでした。本人が真剣なだけにリンクも言葉を慎重に選んだつもりですが結局はツッコまずにはいられないという。まずドーナツを目にしたカービィの食欲は抑えられないと思いました。カービィ可愛いよカービィむしろカービィが正義。自分自重。

ちなみにアイクは隠しているつもり満々ですがメンバーには既にバレバレです。加えて正義の味方ならぬちびっ子の味方と豪語しているのはマスターの入れ知恵でもあります。その方がインパクトあるとか何とか言って丸め込んでいますが、頭がドーナツな時点でアウトですよね(カービィの餌食になってます)。

では、ここまで読んでくださりありがとうございました!


2010.9/12



ちょっとオマケの余談

「で、なんでここにいるんだお前は」
「ドーナツマンだ」
「見ればわかる」
「そうか」
「納得するな。それに釣りに付き合う意味がわからん」
「気にするな」
「できるか」
「それとだ」
「……手短に言え」
「ここにカービィも呼んでおいた」
「そうかカービィがここに……って待てっ!?」
「どうした?」
「さも当然そうにドーナツ頭向けるな! お前、人の話を聞いていたのか?」
「ああ、友人から聞いた。俺はもっと気が付くよう努力しなければならないと。だからこそ原因を調べるためにカービィを呼んだ」
「…………」
「どうした、そんなに震えて。獲物でもかかったのか?」
「―――トライフォースラッシュッ!!」
「ぐほぁっ!?」

一方その頃の桃玉
(どーなつ、おやつ!)






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