03
朝食のかぐわしい香りが部屋を充満していたのに気がついたのは、着替え終わってからになる。
おそらくイリアのおかげだろう。俺が呑気に寝ている最中に出来るだけの準備を済ませていてくれたのだ。
自然と頭が下がる。明日、何かお礼をしなくちゃならないな……。
「リンク! 準備できたの!?」
イリアは既に外で待機している。こういうところが気が早いというかお節介すぎるというか。とりあえず返事だけでもして、朝食を腹に納めるとするか。
「ああ!」
俺は外に向かって叫び、即座にテーブルに用意された焼きたてのパンとトアル村特製のカボチャスープを口に放り込む。
……………………………。
朝食の仕込みは俺がした、とはいえ。
流石イリア、短時間で細かな味付けをするとは。質素かつ濃厚になった料理に思わず時間を忘れかける。
が、今は無理だ。
味を確かめる時間も惜しい。
本来ならばじっくり味わいたい朝食を三分ほどで片付け、皿と器を台所に置き去りにした。秒単位でも無駄にはできない。
後片付けが面倒くさいだろうな……。
そんなことを思考の片隅で思いつつも、一気にドアの前まで大股に駆ける。
そしてそのまま出ようとして、
立ち止まる。
……危ない、忘れるところだった。
俺は一旦身を翻し、机の横に立て掛けていたものを掴む。
堅いような柔らかいような、不思議な暖かさをもつ武器。
『木刀』。
これがなくては、『約束』が果たせない。
よし、と気合いを入れた俺は、外界へと繋がる扉を開けた。
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