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廻る。
世界が廻る。視界が混乱する。思考が靄に覆い隠される。鮮明なイメージが捉えられないまま、廻っている。
闇の渦に巻き込まれている感覚だった。意識はどこか朧気になりがちで、まともな状況判断が期待できない。
そもそも、自分はどこにいるのだろうか?
仮に夢だとしても、『出来すぎた』空間だ。夢のように不規則かつ不文律な法則が横行しているわけではなく、何か得体のしれない何かが『視せて』いる時間と空間の狭間に似ている。
それ以上は理解できない。
流されていく。
どれだけの時間が過ぎたのか。一秒、一分、一時間……時間の感覚が曖昧になっている。
しかし、いつの間にか渦が止んでいた。
ふわり、ふわり。
ゆっくりと、光の雪が降ってきた。闇を照らし、幻想的な空間を創り出していく。
そのうちの一つが、眼前で停止した。
雪が目の前で明滅する。
瞬間。
緑。剣。
光。森。火。水。闇。魂。
聖。時。歌……。
…………なんだ?
雪崩れ込む抽象的なイメージに、不思議と懐かしさを抱いた。
ずっと前からそれを知っているような……気がする。
いや、違う。
思い出してはいけないもの。
されど、決して忘れてはならないものだ。
役目を果たしたのか、光の雪がうっすらと消えていく。
無意識に、手を伸ばした。
蝋燭ほどの光となった雪に触れかけたその瞬間…………
弾けた。
そして。
これは。
これは……?
霧散した光が、再び形を成した。
正三角形の、甘美なる輝き。
三つで一つ。
神の贈り物。
その、『勇気』のヒトカケラ。
覚えていないのに、覚えていた。
理解が追いつかないというのに、魂が共鳴していた。
それは聖なる黄金。
力の証明、絶対的な運命の象徴……。
光は輝きを増していく。
―――誘っている。誘われている。
宿命だ、と誰かが囁く。
遥かな昔から繰り返される、お前の役目そのものなのだと。
―――勇気ある若者よ。
どうか、宿命を受け入れてほしい。
運命に負けず、その足で立ち上がってほしい。
白濁とした意識で囁きに耳を傾けていたが、次第に眩い光に飲み込まれていき――――
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