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自然と会話がぷっつりと途絶え、戦いの余韻が非日常として記憶に刻まれていく。

頭上の海を泳ぐ鳥が透明な波に揺られて旋回し、飛び去っていくのを黙って見守る。

戦いの緊張から解放された時間。

安らかな時の刻みにつられて、このまま眠ってしまおうか……。

「リンク、お前の木刀……俺が預かろう」

視界が胡乱になり出した俺を覚ますようにモイさんが切り出した。

「木刀……ですか?」

俺はモイさんに握られたままの木刀に意識が傾いた。何度も鍛錬を重ねた傷が木刀に走っている。勲章であると同時に年期の入った痛々しい姿だ。

「ああ。そろそろ手入れしないと木刀に悪い。……で、俺にも勝てなくなるだろう?」

……は?

俺は目が点になった。つーか今何て言った師匠。

俺の困惑に凝り固まった表情を見やったモイさんは、やれやれ、と言うように頭でかぶりを振り、続けてにやけた口をあからさまに見せつける。

わかったか弟子よ、お前は俺には勝てんのだ。せめて武器くらい労ってやれ。

そんな言葉が浮き彫りになったような意地の悪い企み顔が突き刺さる。

……。完全に遊ばれてるなこれは。
しかし腹が立つよりは笑いが込み上げてきて、俺も軽い調子に便乗した。

「それ喧嘩売ってるんですか」
「弟子が師に勝つには武器の扱いくらい丁寧にしとけってことだ。というわけで明日の鍛錬は一人で基礎トレーニングだな」
「相変わらず無茶を押し付けるのが上手ですね」
「おっとそいつは困った。この師にしてこの弟子あり、という例えもあるしなあ。じゃあ明日からはファドに牧場を一任して素振りの指導でも」
「すみませんでした」

俺は呆気なく折れた。流石は師匠と呼ぶべき存在だ、弟子の行動原理を把握しきっている。

だってそうだろう?
ファドだけでは牧場の経営はおろか動物たちの世話が幸先不安過ぎて任せられない。動物に好かれやすい性質を持つ、というのに何故か脱走されやすいファドの腕前といったら、本当に経営者なのか疑いたくなる程なのだ。

そしてモイさん直々の素振り指導は今更語るまでもないほど熱血気質。疲労困憊になる俺の酸欠姿が容易に想像できてしまった。もう降参するしか手だてはあるまい。

「ふむ、素直で宜しい」

トアル村の看板剣士は痛いところを的確に見抜いて口論の勝者となり、同時に師匠と弟子の軽快な笑い声が訓練場に響いていった。




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