15
澄み渡る蒼い空をバックに、何重にも積み重ねられた森の緑が視界一杯に広がっていた。太陽の傾き方から、時刻は昼より少し前あたりだろう。
時おりフィローネの森を駆け抜ける風が、戦いの熱を奪い去っていく。
ひんやりとした感触に目を細め、草むらの柔らかさを噛み締める。やっと訪れた平穏さが俺の精神に干渉し、非日常を追いやっていった。
そして思った。
ああ、惨敗だったさ。
俺は思わず苦笑していた。
あれから何度も挑んでは読まれ、作戦を練っては返り討ちにあい。
ついには師匠の木刀が脳天を直撃、試合はこれをもって終了した。
……正直、まだ痛かったりする。
容赦ない一撃はいつものことだが、今日はやけに気合いが入った指導だった。まさに熱血教育の一言に尽きる。木刀が傷だらけの姿を晒しているのはそのせいだろう。
まあ、遅刻しかけた俺の態度が、師匠のやる気に拍車をかけたのだろうな…。
「おい、リンク」
耳に慣れた言葉を認識したと同時、ふっ、と影が差した。
意識の焦点を自然と向け直す。そこには師匠……もとい、モイさんが悠然と立っていた。
同じように戦っておきながら疲労を表情に出さないところは、流石は腕利きの剣士といったところだろう。俺も見習わなければ。
「まったく、読みやすい動きばかりするからだ」
やれやれと苦笑いされつつも、モイさんは小川の水に浸したであろう布を投げてよこした。
「ありがとうございます」
俺は感謝を述べ、空中で受け取った布を後頭部に当てる。触った途端に痛みが走ったが、ひんやりと冷却されていく心地に痛覚が和らいでいった。
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