13
「ぐっ!」
わかっていたとはいえ、それなりの衝撃が身体を揺らす。捨て身の攻勢は自身にまでダメージを及ぼす。
だが。
師匠の体制が崩れている、今こそが好機。止まってはいられない。
ほんの一瞬だけ有利な状況を作った俺は体当たりの反動をこらえ、焦点が定まらないままに木刀を突き出す。そこには超えるべき目標が―――
「っ!?」
―――『突き』の軌跡を払いのけ、眼下から突っ込んできていた。
思わず呆然としかけ、瞬間的に我に返る。
しまっ……
僅かであれ、こちらが隙を生んでしまったと反省する間もなく反撃が迫り来る。
―――手刀による首筋への直撃コース。
師匠の木刀は俺の利き腕を強制的に抑え込み、空いた手首の反動による返し手を繰り出していた。
頭が理解するよりも早く、体が無意識に回避行動に移る。
「くうっ……!」
……間一髪。
無茶な姿勢ではあったが反射的に仰け反ったことが幸を成した。
しかし、俺は苦みを胸中に抱え始めていた。
後退してしまった時点で攻勢は失われ、逆に付け込まれている。
蹴り、左、斬撃、薙……
攻撃を判断し、防御に移る。単純な言葉の羅列が脳内を支配し、作戦をまともに考えるほどの余裕すらなかった。
連続的な打撃が俺を劣勢に追いやり、ふと背水の陣という言葉が浮かぶ。
マズい。
まともな思考を失いかけている、と自分でも判別できた。
迷宮の出口だと信じて疑わなかった扉が開かず、為す術なく立ち尽くしてしまうように。
強い。
はっきり言ってしまうと、危機的状況だ。幾度考えを巡らせても、経験という名の壁が幾重にも立ちふさがる。浅はかな作戦はあっさり見破られ、流れを断ち切られてしまった。
だというのに、
「……いい顔、しているじゃないか」
にやり。
悪戯っぽく、俺と師匠は笑いあった。
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