12
―――自身への命令は『待機を継続』。
初動を見極められたら終わりだ。まずは気配を読ませないようにしなければ。
俺は息を殺し、続けて眼前の強敵を見据える。
緊迫した空気に静寂が訪れたような錯覚。
傍目には、どちらとも微動だにしていない。
だが。
………腹の探り合い、というのは立派な戦術の一つだ。
隙あらば突き、なくとも好機を伺う。だが伺うだけでなく、攻勢に回って隙を作れば有利な状況に持ち込める。逆に守勢に徹し、意図のある隙を出して攻撃を誘うのことも可能だ。
そう、これは決して卑屈になって逃避しているわけではない。
星の数ほどある手段を選別した結果なのだ。
何度も打ち合った相手。
俺にとって、目標とする強大かつ強固な壁だ。
稀に追い詰めたと思えば指導され、勝てた試しはない―――が。
何故だろう。とても有意義だ。充実感すら覚えている。目立つことは嫌いだが、使命感に燃えている、とでも表現すればよいのだろうか。
それこそ、ずっと昔から知っているような。
俺が果たすべき役目の一つのような気がしてならない。
時間が流れる。
頃合いだろう。俺は先手を握るために、意思を場に伝えた。
半歩、前。
じゃり、とした音。
瞬間―――張り詰めた空間が粉砕された。
「……おおおっ!」
大きく踏み出し、気合いを込めた一撃。
傷だらけの木刀が一閃し、容赦なく師匠を襲う。
吸い込まれるような軌道は、あっけなく空を切った。
師匠は半身を翻し、なんなく必殺の剣をかわしていた。
それどころか翻った勢いを利用して迎撃、大振りで体勢が整っていない隙を狙われる。
しかし。
―――予想通り!
右わき腹に向かってきた軌道に内心沸き立つ。
幾度もぶつかってきた経験から学んだ相手の癖。
戦いは全力を持って迎え撃つのみ、だ。
俺は横なぎの剣撃に対して、無理矢理に木刀を割り込ませた。無茶な姿勢だったが攻撃を防げた。
このまま一気に……!
正面に向き直り、更に一歩前へと躍り出る。
距離は―――零。
単純に言えば体当たりだった。
[back] [next]