09
夢の残滓が現実を支配し、焦燥感と理性を吹き飛ばし、正常な五感を掻き消す。
なん、だ、この感、覚……っ!?
有り得ない事態に俺の思考は混乱する。急激な変化に抗うこともできず、目の前の景色が揺らぐ。
時間と空間を凌駕した『白』。
…………何も見えない。
郷愁感が入り混じるような、畏怖が感情を逆撫でていくような、歓喜が沸き起こるような。
抑えきれない何かが、心臓の鼓動の音を速めていく。
―――勇気ある若者よ……。
ふと。
誰かの言葉が浸透し、抽象的な光景がなだれ込んだ。
『白』い世界が二分される。
光と、影。
対なる存在。
お互いが支え合い、交わることのない領域に存在する存在……。
永劫不変の理。
だが―――
影が光に干渉、浸食していった。
不文律が不安定な空間を広げ、交差した領域は見る間に負の要素を生みだしていく。
それは駄目だ、と遠のいた意識で叫ぶ。
光は影がなければ存在せず、また影も光がなければ存在しない。
法則を無視し、影だけが表に『裏返し』してしまったら―――世界の均衡が保てない。
崩れ落ちる世界。
その、不安定な影の光の中に……一条の光が瞬いていた。
綺麗な瞬きは、実に弱々しい明滅を繰り返していた。
それはまるで。
―――泣いている、のか?
何故、と答えを求め、
ざざぁっ!!
「―――うわっ!?」
顔面に木々の葉が直撃してしまい、俺はバランスを崩しかけた。とっさに機転を利かせ、仰け反りかけた姿勢を無理矢理前面へと押し出す。
夜を追いやる朝焼けの光に、冷涼なる風の流れ、新緑の森が視界に復活していた。
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