08
幼なじみは例のごとく昼飯を一緒に食べるために来たのはわかる。
だがモイさんまで連れてくるのは予想外だった。
―――モイさんはトアル村の唯一の剣士だ。俺の剣術の師匠でもある。年齢に見合った優しげな風貌と、時々醸し出す戦士の強い眼差しが特徴的な人物だ。
何故モイさんが来たかはさておき、俺はとりあえず三人でイリア特製の昼飯を頂き、昼休みが終わるまで談笑していた。
何気ないことや、牧場の仕事のあれこれ。山羊の体調管理及びエポナの機嫌。
何でもない日常を語り合う。
その最中、今回の事態の鍵が浮かび上がってしまった。
そう、ここで俺はモイさんにある約束を持ちかけられた。
―――曰く、『剣術指導をかねた稽古』。
毎日自主的に剣術の鍛錬を行っているとはいえ、いずれにせよ一人稽古では限界が訪れてしまう。
そこで時折、モイさんの剣術の指導を受けるのが当たり前になっていた。
……当たり前だった……。
当たり前すぎて気が抜けていたのだろう。
いつものような日常に、慣れすぎていたのかもしれない。自身の習慣が鈍ったことに苛立ちを覚える。
そうだ、いくら不可思議な夢を視たからとはい……え……。
夢?
刹那、俺の思考は真っ白になった。
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