「……殺したの?」


床に広がる赤い染みを一瞥したオールサンデーは、窓の外のバナナワニをじっと見つめているクロコダイルの背に視線を移した。
コートの間から僅かに見える彼のカギ爪は、暗闇の中であっても微かに差し込む光に反射して赤く、鈍く、輝いている事がハッキリと解った。


「……別に、そこまで計画に支障は無かったんじゃないかしら。あの娘あんなにあなたに入れ込んでいたのだし。……結局はあなたが」

「黙れニコ・ロビン。てめェにゃ関係ねェだろう」



計画を知った者はどんな者でも廃除する。
危険の芽は早々に摘まねばならない。
数年に渡る”努力”を実らせる為には、どんなに些細な亀裂も許されないのだ。

殺されると理解してユメはここに来た。逃げる事も、知らないフリも出来たはずなのに。
そぶりも見せずいつもの笑顔をお前が見せたなら、おれはきっとその亀裂を見ようとはしなかった。それも、分かっていたくせに。


(……だから、偽善はヘドが出るんだ)


幸せと野望は違う。
おれの幸せはとっくに手の中にあった。
お前と共にいる。その生温い一時が。



野心はまるで「砂漠の苺」の様に魅惑的で、虜となって口にした者を甘美な毒で滅ぼす。
他を切り捨て、野望を貫く愚かな者への罰の様に……




「……ユートピア作戦、発動だ」


END
10.03.12
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