ずっと。ずぅっと愛し焦がれていた。
けれども貴女は私に気付かない。
仮初の面を被り、いつだって近くで、貴女に微笑みかけてきた。
けれども貴女は私に気付かない。
私を好きだと言うその口が、私を見る目が、触れる体温は確かなのに。
けれども貴女は私に気付かない。

「だから、ですよ」

いつものように微笑むと、彼女は真っ青にした顔を引きつらせて一歩足を後ろへ引いた。
覚束無い足取りを心配して近づけば、一歩、また一歩と後退り。
なぜでしょうか?これではまるで、幼子にも劣る滑稽な舞いの様。決して嫌いではありませんが。
案じた通りやはり彼女は足をもつれさせ、ストンとその場へ尻餅をついてしまった。
痛かったでしょうに。分かっていながら、可愛らしい、と思ったと口にすれば、貴女は怒るのでしょうか?
ふ、と思わず笑みと共に漏れた吐息は、もういつものようにこもる事はない。
久しく感じなかった、さらりと頬を撫でる空気が心地良い。
解放感に震える唇をおもむろに舐めると、みずみずしい鉄の味がした。
ぴちゃん。
鎌を伝い、滴る赤が地面へ滑り落ちて行く音が、静けさを煽って大きく響き渡った。

「……本当に、貴方様が、皆を殺したのですか?あんなにお優しかった貴方様が……命を尊び慈しむ、天海、様、が」

骸がひしめく中で彼女が呆然として呟いた。
てんかい。途端に狂おしい程切なくなり、吐息だけで自らを表していた名を紡ぐ。
ああ。この期に及んで、まだ貴女は私に気付かないらしい。いい加減、目を覚ましていただきたい。そして曇りない眼で見てほしい。貴女は知っている筈だ。本当の、私を。

「全く、疎い人ですねぇ。貴女のご友人も、ご家族も、全て、この私が殺めました。では何故か?見たかったのですよ。貴女のその、『私』を見る顔が」

貴女にだけは知ってほしかったのだ。こんな仮面の姿などでは到底足りないから。ああ、どうか気付いて。ありのままの私を。
そしてどうか受け入れてほしいのです。

「――私の、本当の名は、」

奪われた名はここには無くて。どうしても、どうあがいても、この口から出ては来やしない。
ならば直に刻みつけましょう。貴女の体に、内側へ。
ああほら、ようやく私に気づいたその顔は


ああなんて、キ レ イ――

16.11.15
     
≪戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -