「おだいりさぁまと、おひなさまぁあ〜」

「今日はやけに機嫌が良いのだな。……一つ聞くが、それは何かね」

「あ、松永先生!?い、居るなら居るって気配出して下さいよびっくりした。っていうか見て分かりませんか雛人形ですよ。私が作ったんです」


熱唱していた所を突然部室に現れた久秀に声をかけられ若干うろたえた繭だったが、手元のそれに話題が移るとにこやかに笑い、「可愛いでしょう?」とばかりに『雛人形』を見せた。
雛壇に飾られる様な端正な顔立ち……とは程遠い、和紙で出来たつぶらな瞳の卵形の雛人形(らしき物体)が二つ。
キョトンと久秀を見上げていた。


「これ此処に飾っても良いですよね。この部室どうも可愛さに欠けるっていうか」

「卿は茶道に可愛らしさを求めるのか、いや感心。加えて雛人形を飾る意味を知らないらしい」

「え?嫌ですね知ってますよそれくらい。女の子が早く結婚出来る様に願いを込めて、って意味ですよね?」

「……卿に雛人形は似合わないよ」


遠回しな嫌味が効かない繭の真っ直ぐな答えに、久秀は心底つまらなそうに言った。
その言葉と態度に繭はむぅっ、と唇を尖らせる。


「じ、じゃあ良いですよ、これは自分の部屋に飾ります。私が結婚出来なかったら松永先生のせいですからね」


顔を赤くしてそっぽを向いた繭に、久秀は少しだけ困った様に苦笑する。
常日頃から冷淡な久秀しか知らない生徒が見たら驚くであろう、その表情の価値を、繭はまるで分かっていない。


「繭、私はそういう意味で言った訳ではなくてだね……」


――嫁ぐ心配などしなくても、私の所に来れば良いのに。

そう、思わず言ってしまいたくなった久秀は、その口をぐっとつぐむ。
我ながら酔狂な事を思う、と。


「?松永先生、今何か言いました?」


少しだけ怪訝そうな繭の問いに、「何、瑣末だよ、忘れてくれ」と片手をあげて制した。

――他の男に嫁ぐ事など考えないでくれたまえ。
その雛人形ごと、全てを壊したくなる衝動に駆られてしまうよ――

物騒な考えを内に秘め、ゆるりと雛人形を眺める松永久秀を繭は平和な表情で見詰めるのだった。


―終幕―



--後書き----------

片思いな可愛い松永先生を書こうとしたのに、結局微妙にダークな方向に……(泣)
戦国時代では雛人形を飾る意味が今と違うみたいなので現代パロにしてみました。
茶道部顧問なのはイメージと願望の賜物(笑)

08.03.02
     
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