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 過去の話、ずっと前。追いかけても逃げられて、そのくせ次に寄って行くのを拒まない。求めて縋れば手に入る気がして、諦められなかったわたし。失った実感もなくていつ涙を流せばいいかもわからなかった。
 過去の話、夢の世界。生まれ落ちた世界の中で、どれが現実だったのか判別できなくなるたびに、わたしを蝕む毒の記憶を蘇らせて。思い描くばかりの闇はいつしか形を伴って現れた。
 過去の話、少し前。いつかこうなる気がしてた。一人で考えて考えて考えて、勝手に出した結論を胸に、消えてしまうような。その時わたしはきっとものすごく腹を立てるだろうなって思ってたけど、実際はこんなもの。……まあ、わたしも似たようなこと、したわけだし。
 だけど身勝手な言い訳を、わたしのためだって思ってるのはムカつく。せめて一言、もう消えるからって言ってくれたら。罵倒して止められなくても思う存分怒らせてくれたら。
 でも前からそういうヤツだったっけ。
 過去の話、ついこの間。満身創痍でなんとか正気を保ちつつ、戻るのは嫌だなんてほざいてた。援護を期待してたのにゴルベーザは何も言ってくれない。セオドアは知らないから仕方ない。エッジもついて来てくれただけで感謝。
 ……甘えるべきだったのかもしれないって思ってた。ローザは無理でも、カインにぐらい頼ってよかったかも。それどころじゃない、けど協力してくれたはず。だから頼めなかったんだけどね。
 とにかく、まだいるはずだから、絶対に取り戻す。もう決めた。誰にも邪魔させない。結論は後回しにして味方を増やそう。
 過去の話。
「私がかつての私だと言い切れるのか。肉体はもとより、この意識も魂さえもクリスタルに再生されたまがい物かもしれん」
「そんなのわたしだって同じだよ。わたしがあっちの世界から戻ってきたサヤだなんて、誰にも証明できない」
 今は無意味な、過ぎた記憶を順に巡る。……なんか走馬灯みたい。手を取って真っ直ぐに見つめた。「わたし」はここにいて、「スカルミリョーネ」と話してる。それで満足だよ。
 握った手にぎゅっと力をこめて見つめた。「一緒に帰ろう」

 今までの話。……夢なのか現実だったのか、もう関係ないよ。失うことになってもいい。つらくてもいい。泣いてもいい。耐えられなくてもいい。帰ってきてよ。
 もう一度だけ……知らない内に失ってたなんて、間抜けな別離だけはもう嫌だ。帰ってきてよ。わたしはもうどこにも還らないから。終わりを見定めた日常じゃなくて、悲劇も喜劇もここで演じるから。
 嘘も真実も、わたしのすべて、まるごとあげるから、帰ってきてよ。夜の夢の中でも昼の光の下でも一緒に生きていたい。

 ……はい、それじゃあ今の話。
「サヤ。お前は私を、愛しているのか?」
「このばかやろう大っ嫌いだ!!」
「な、なんだと?」
「今まで散々渋って逃げて拒絶したくせに! 一人で勝手に結論出して消えたかと思えば、一人で勝手に結論出して『愛してるのか?』バカか! アホか! 自分が勝手になかったことにしたくせに! バカルミリョーネ!」
 バカバカ言われ慣れてなくてあたふたしてる姿がちょっと可愛かった。くそぉ、ほだされるもんか。
 優しさだけでもいいから。嘘にしたいならそれでもいいから、どんな願いでも叶えるから、……傍にいさせてよ。
 そういう、必死の決意を、今おもいっきり踏みにじられた!
 愛してるか? あったりまえじゃん! 何のために悩んで迷ってそれでもここまで来たと思ってるの。全部、もう一度手に入れるためじゃないか。
 失う未来を見つめながらじゃない。ホントに近くで同じ時間を、同じ世界で生きたかったから。いつか終わりが来る日まで、死が迎えに来るまで生きるために。一緒に生きるために。
「夢なわけないじゃんか! 痛かったもん!!」
「いっ……」
「モンスターなんだから! アンデッドなんだから! 生死の境界くらいスルッと越えてるんだよ!」
「だ、だが私は、サヤは夢だと思っていると、」
「あっちにいるときは痛くなかったんだから夢だか現実だかすぐわかるに決まってんでしょぉぉ!」
「…………あちらでも同じ夢を見ていたのか?」
「うっさいッ、そこは聞き流してよ!」
 見てたに決まってる。夢は願望。叶えたくて死にそうな、闇の底から叫ぶ望み。叶うなら夢でも現実でも構わなかった。結果わたしが消えてもべつによかった。

「好きだったもん……最初からずっとそう言ってたのにぃ……なんで今頃聞くの?」
 流れ落ちたものに動揺してスカルミリョーネの手がわたしの頬から少し離れた。あっ、と……気づかなくていいことに気づいてしまって慌てて振り返る。……あれっ、セオドアがいない。
「……奴ならさっき去って行ったぞ」
「ああ、誰かと違って空気読めてるよね」
「…………」
 憮然としつつ冷たい手がわたしから離れていく。だけどかつてのように背を向けられることはない。
「もう一回、聞いて」
「……サヤ。私が好きか」
「大好き」
「お前が愛しているのは誰だ」
「スカルミリョーネ」
「……そうか」
 誰と比べるまでもなく、ただもう失ったまま生きてはいけないくらいに。必要なんだ。全身で求めてるんだ。
 一度ため息みたいな息を吐いて、スカルミリョーネが笑った気がした。
「バルバリシアのところへ行ってくる」
「……へっ?」
 どうして急にバルバリシア様? どうしよう、バカバカ言いすぎてホントにバカになっちゃったのかな。壊れたスカルミリョーネは叩けば直るの?
「えっと、報告、とか?」
「そうだな。隠しておくと後が恐ろしい」
「や、っていうかわたしの気持ちは前から知ってると思うけど」
 そもそもさぁ、バルバリシア様に牽制なんかしに行く前に、わたしに何か言うべきことがあると思うんだよね。愛してるとか。うわあ。言われたら言われたでわたしどうなっちゃうのかな。
 スカルミリョーネは少しの間、家の方を睨んで不敵な笑みを浮かべた。
「……知られているなら尚更行かねばならんだろう。付け入る隙があると思われては困る」
 そして振り返って、見たことないような笑顔で「待っていろ」って。誰これ。今もしかして夢見てるわたし? あ、ちょっと混乱してる。
 それよりも、家路を辿る後ろ姿に言い知れない不安を感じる。なんだろう、なんとなく覚えがあるような、ないような。
 俺さ、この戦いが終わったら……君に話があるんだ。どうしたの、急に真面目な顔しちゃって。ううん。帰ったら聞いてくれるかな。ふふっ、変な人ね。分かった、待ってるから。ずっと待ってるから……。
「……スカルミリョーネそれ死亡フラグたってるから! 行っちゃだめぇぇぇ!!」

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