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肝試し


 スカルミリョーネはわたしに対してなにひとつ働きかけてくれない。近づくのはいつもわたしからで、拒絶されて落ち込むのもわたし。悔しい。どうにかしてスカルミリョーネの方から手を差し延べさせたい。
 支配欲、独占欲? まるで恋でもしてるみたい。全部に無関心な頭の中をわたしのことでいっぱいにしてやれたら。

「子供つくろう!」
 って声をかけたら、驚きすぎたスカルミリョーネが派手な音をたてて頭をぶつけた。さすがに痛そうなんだけど……大丈夫なのかな。
「サヤ……気でも違ったのか」
「大丈夫、わたしは正気だよ! 頑張って女の子を産むからね」
 スカルミリョーネですらメロメロになるような。まあ、実は冗談なんだけどね。本当に子供ができるとは思えないし。スカルミリョーネは助けを求められる誰かを探してオロオロと目を泳がせてる。でも今は二人っきり。泣こうが喚こうが助けはこないんだよ。
「……」
 目を合わせないまま、そっと手に丸薬を握らされる。なんだか見慣れてしまったこれは万能薬?
「混乱してるのはむしろそっちだと思うけど……」
 この動揺でとりあえず第一段階はクリア。ここから先の展開は、線を越えるためのわたしの覚悟の深さと、眉をしかめっぱなしのスカルミリョーネの度胸次第。

「お前の考えることはさっぱり理解できん」
「子供ができて家族になったら、わたしのことも好きになってくれるかなぁ、って」
「……できるわけないだろうが!」
「どうして?」
 私はアンデッドなんだぞ、とつぶやいた横顔は少し寂しそうに見えた。わたしの思い込みかもしれない……けどもしかしたら本当に、家族がほしいって、ささやかで切実な願いがあったの? そう思うとなんだか胸が熱くなった。
 アンデッドだって、すでに生命の終わった存在だって、まだ子供が作れるかもしれないじゃん。ファンタジーなんだし、試してみなきゃわかんないよね。夢見心地で考える。楽観的すぎって責められてもいい。
「もし子供ができなくたって、わたしはスカルミリョーネの家族になれるよ?」
「……意味を分かって言っているのか」
 あ、べつに覚悟なんていらないのかもしれない……。期待と不安がないまぜになったスカルミリョーネの顔を見てたら、そう思った。

「わたし、スカルミリョーネに全部あげてもいいよ。……っていうか、あげたい」
 やっと真正面から向かい合った視線は、声もなく『困った、どうしよう』って気持ちを溢れさせてる。立ち尽くしてたスカルミリョーネは退かないわたしに観念したように、ローブを取り払った。
「この体を見ても、まだそう言えるのか?」
 泣きそうな声で吐き出された言葉に首を傾げる。たぶん、人間じゃないんだぞとか、魔物とできるのかとか、そんなことが言いたいんだとは思う。……今更だよ、そんなの。

 この世界にきてから周りが魔物だらけの生活をおくって、きっと元の世界での倫理感はずいぶん剥がれ落ちてると思う。月明かりに照らされたスカルミリョーネのすべてを目の当たりにしても、躊躇なんて感じない。ただちょっと怖くて、恥ずかしくて、そのときが待ち遠しいだけ。
「……それがなければ、触れることもできない」
 そう言ってわたしの腕にはめられたアミュレットを指差す。
「外しても、さわれるよ?」
 死んじゃうけど。と言うと優しく頭を叩かれた。何が問題なんだろう。守ってくれるものがないと触れるだけで毒に侵される。でも、これをつけてればいいだけの話だし。嫌われるって考えただけで息ができないほど苦しくなる。死に至りもしないで永遠に続く、こっちの毒の方がずっとつらい。だから、何かが問題なんじゃないんだ、結局。

「もう、いい加減に覚悟を決めろー」
「……それはどちらかというと私のセリフだろう」
「わたしは……最初っから言ってるでしょ」
 一向に近づいてこないスカルミリョーネに焦れて抱き着く。首に手をまわすと足が届かなくてぶら下がる格好になった。スカルミリョーネが少し屈んでくれて、わたしは嬉しくて爪先立ちのまま頬にキスをする。
「……大好き」
 あーあ、やっぱりわたしの負けなんだ。でも、いっか。言葉は返してくれないけど、わたしの背中にまわされたスカルミリョーネの腕が、なにもかも許容してくれてる気がするから。

***


 いくら室内だからって、裸でじっとしてると寒い。じりじりというよりイライラに近い心持ちでベッドの上で背を向けて考え込んでるスカルミリョーネの背中を睨みつける。いつまでうだうだ考えてるの、この根暗! こんなときくらいは頭からっぽにしたっていいじゃない。ホントいい加減にしてくれないと、緊張感がもたないよ。
「……はっくしょん!!」
 盛大なくしゃみにスカルミリョーネが振り返る。恨めしい気持ちをたっぷり込めて見つめると、腕を引っ張られて抱きかかえられた。びくっと震えそうになった肩を理性で抑える。「いやだ」と「待って」は封印しよう。じゃなきゃ始まらないまま終わっちゃう。

 触れ合った胸元に微かな鼓動を感じた。生きてるんだって、わたしの感覚では思えるんだけどな。スカルミリョーネの肩に手をかけて真っすぐ見つめる。
「あのさ、いくら考えても、後悔は先にできないんだよ。ぜんぶ終わったみたいに考えないでよ」
「……そうだな」
 まだ踏ん切りのつかない曖昧な顔で、スカルミリョーネがわたしの腰を掴んで向きを変える。バックアタックだ……とか馬鹿なことを考えてちょっと恥ずかしくなった。
「サヤ……もし途中で嫌になったら」
「ならないもん」
「……」
 この期に及んでまだため息をつきながら、スカルミリョーネの手が恐る恐るわたしに触れてくる。いっそ無理矢理、くらいの気持ちでしてほしい。冷静な気持ちで見守ってるの、恥ずかしすぎだよ……。だけどここまできてわたしから逃げ出すわけにはいかない。

 冷たい手が胸に触れた。人のものより長い指の間で乳房が形を変える。指先で円を描くように撫でて中心で硬くなってるものを摘みあげられると、腰の辺りがむずむずした。
 顔が見えないの、やだな。って思ってたけど今は救われる。めちゃくちゃ恥ずかしい……! 体温が上がって息が乱れる。背中で感じるスカルミリョーネの肌との温度差に不満が募る。悔しいから密着した体の間に手を入れて、足の付け根を探ってみた。
「……むかつく。なんか、わたしばっかり……」
「サヤばかり、何だ」
 冷静さを微塵も崩さず尋ねて、スカルミリョーネの手が内股を撫でた。焦らすように少しずつせりあがってくる。負けてたまるか! って心では思ってるのに体は簡単に翻弄されて、わたしから煽る余裕もない。

「顔が赤いな。熱でもあるのか?」
「う、うるっさいな……あぁっ! んんッ」
 口を開いた途端に一番熱いところに指が滑り込んできて、慌てて唇を噛む。体の中で蠢くものの感覚。背筋がぞくぞくして思わず身震いした。何かにしがみつきたくて振り返ろうとするのに、スカルミリョーネの腕に阻まれて動けない。下半身から響くやらしい音と胸元の指の動き。頭がぼーっとしてきた……。
「わ、わたし……変になるかも……呆れ、ないで、ね……?」
 裏返りそうになる声を必死でこらえて、わたしを抱え込んでるスカルミリョーネに訴える。腰の辺りに硬いものが当たった。それが何なのか言われなくても気付いてしまって顔が火照る。これ以上、体温上げさせないでほしい。
「……言っておくが、これでも一応抑えているんだ」
 そんなこと言い訳がましく言われたって、返事できないんだってば。わたしの中を掻き乱してた指が引き抜かれて両手で腰を捕まれる。わたしの体温が移ってスカルミリョーネの肌が少しあったかい。腰を引き上げられて四つん這いの体勢にされる。濡れた部分が外気に曝されて冷たい。今どういう状況なのかはっきり自覚してしまった。

「ああぁっ、んぅ……やっ、それ、やだ……っ」
 どんなことも否定しないって決意は気恥ずかしさに堪えられなくて吹き飛んだ。ぬるぬるとした柔らかい舌が、割れ目をなぞるように行き来する。身をよじってもがっちり腰を掴まれてて逃げ出せない。スカルミリョーネの舌が入ってきた。そこだけ別の生き物になったみたいにヒクヒクと動いて、もっと奥に誘い込もうとする。……人間って、羞恥心で死ねるかな……。
「あぁっ、うぅ……やっ、あぁん、んんっ……」
 舌先が内壁を擦る。差し入れられた舌の動きが性急さを増して、知らず知らず腰が動く。スカルミリョーネの指が剥き出しになった陰核を摘んだ。強烈な刺激に体中が痺れる。
「はぁっ、はッ、あぅ……も、おねが……ああっ」

 理性を失うほどの激しさじゃなく、ただ甘く煽りつづける。もう快感に身を任せちゃいたいのに、うっかり冷静な自分と目が合うと死にたくなるくらい恥ずかしい。懇願するわたしにスカルミリョーネは返事もせずに、わたしの腰を掴んで体勢を立て直すと硬くなったものを躊躇なく押し込んだ。
「い゛っ……〜〜〜〜!!」
 痛みのあまり声も出ない。スカルミリョーネの指が背中の線をなぞり、くすぐったさに少し痛みを忘れて力が抜けた。体を埋めつくしてる感触で頭の中までいっぱいになる。一気に引き抜かれて先端が入口に引っ掛かり、また根本まで飲み込まされる。激しい抽挿に考える時間が奪われていく。
「ッぁああ! くうぅ! ああっ、んんッ!」
 体を支える腕がガクガクと震えて崩れ落ち、ベッドに顔を押し付ける。涙が流れた。痛いからじゃない。気持ちよさのせいでもなくて、どうしてか分からないけど切なくて堪らない。打ちつけられた腰から火花が散るように、胸が熱い。

 スカルミリョーネからわたしの顔は見えないはずなのに、突き上げる動きが止まった。覆いかぶさるように抱きしめられる。首元に息がかかる。言葉も思考も失って、貪り合うだけの獣になってしまいたいのに……。肩先にスカルミリョーネの牙が触れた。その冷たさが、最後の一線を越えさせてくれない。
「サヤ……」
 好きとか嫌いとか、人間だとか魔物だとか……。生きているのかいないのかさえ、どうでもよくなってくる。さっきよりも強く激しくスカルミリョーネの腰が動いて、先端がゴツゴツと子宮にぶつかる。抱え込まれた腕の中で言葉もなく身悶えた。
 どんな姿でも、胸の内にどんな想いを秘めていても、今このひと時は繋がってる。それだけで充分じゃないかな。

***


 ここ数日ろくに顔を合わせてない。ときどき何か言いたげに口を開きかけるスカルミリョーネから、全速力で逃げてしまう。だって目が合っただけで堪えられないんだよ。恥ずかしいんだよ!
 痛くて気持ち良くて、それより幸福感でいっぱいだった。わたしの中で果てたスカルミリョーネ。言葉よりずっと確かなものをもらえた気がしてうれしかった。……そこまではいいんだけど。その後の記憶が、ない。
 気を失ってたわけじゃないのに、何をしたのか言ったのか、思い出そうとすると頭の中に靄がかかる。揺さぶられ続けた感覚だけ……。もう余裕なんて全然なかった。一体どんな醜態を曝したのかって考えたら叫んで転げ回りたくなる。

「おい、サヤ」
「わああああごめんなさいっ!!」
「なっ……なぜ謝るんだ」
 条件反射で逃げ出すけどそれより早く伸ばされた腕に捕まった。気配なんて読めないわたしは後ろから襲われたらもう逃げられない。そーっと振り返ればスカルミリョーネが不機嫌まるだしで佇んでた。頬がカーッと熱くなって、赤くなってる自分を想像するとまた恥ずかしい。
「……今更逃げるぐらいなら、始めからあんなことを提案するな」
「だ、だって〜……」

 頭上で小さな呟き。よく聞こえなくて聞き返そうとしたら、スカルミリョーネの腕がわたしの腰にまわされた。そのまま抱え上げられる。薄いローブ越しに冷たい肌の感触。こんなことでドキドキしてたら身が持たないよ……。
「な、なに?」
「……」
 スカルミリョーネは答えない。わたしを抱えたまま無言でスタスタと歩いて、わたしの部屋の前につくとそっと降ろしてくれる。
「……?」
 どうしていいか分からなくて見上げてみても、ただ視線を返されるだけ。部屋のドアとスカルミリョーネの体にはさまれて、どこへも逃げられない。とりあえず状況を打破するために、ドアを開けて部屋に足を踏み入れる。その背中をひやりとした手が軽く押した。
「……子ができるまで、試してみるんだろう?」
 えっ、いま笑った? ってそれあんまりいい意味の笑顔じゃなくない?
 確かめる間もなくドアが閉まる。気恥ずかしさなんて掻き消すくらい、傍にいるのが当たり前になるまで……懲りずに繰り返すんだろうな、きっと。

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