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 船が来たぞー、空飛ぶ船だー。って呑気な状況じゃなくて、少し前を行くセオドアとカインの顔色を見る限り、事態は最悪な方向にいきそうな感じだ。
 あれに誰が乗ってるのか。赤い翼? でも動かしてるのはセシルじゃないに決まってるし、だからって他の誰かであるはずもない。じゃあ誰?
 っていうか正直そんなことどうでもいいなんて思ってないけど、これってすごく急がなきゃいけないシーンだよね。よし。
「セオドア!」
 走り出そうとした背中が立ち止まってわたしを振り返る。なにか救いとか励ましとかを求められてる気がした。……ごめん。そんな余裕ないや。
「わたし外で待ってるから二人で先に行ってね!」
「は、はい!」
 カインがずっこけそうになってたけど見なかったふりをする。何なのかなその目は。なんか文句ありますか? 二人で先走った方がいいのはわかってるでしょー。
 頭の上を船が通り過ぎる。影で地面が暗くなった。それの来た方角へすごい勢いで駆け出す二つの影を見送りながら、膝に手をついて一息。二人とも体力ばか。
「……座っちゃダメだーサヤー」
 ふぁいと、おー。いま糸が切れたら二度と動き出せないかも。もういろいろと限界です。体力も精神力も……。
 あと少しって気はするんだよね。何がかはわかんないんだけどさ。とりあえずダムシアンまであと少しかな。うん、あんな程度の距離は「あと少し」だ。強がりじゃなく。

 去り行く船を追いかけるようにやってきた別の飛空艇、普通に考えてこういうとこで空から助けにくるのは、シドかな。
 つまりこうだ。今あの城で何か起きてる。イコール、どんな問題でも簡単には片付かないからその間はわたしが休める。仮にたどり着いたときすでに解決もしくは悪化してたなら、今後の展開として飛空艇でどこかへ向かうはず、イコール着くまで船室で休める。
 休める! ともかく少しの間だけでも、魔物のうようよしてない場所でゆっくり眠れる。……なんだか思考回路が人として間違ってる気もするけど。
 最悪なのはわたしだけ乗り遅れてここに一人置いて行かれるパターンだけど、いくらなんでもそれはないと思いたいなぁ。
 城門から離れたところに着陸した船体を睨みつける。ほんのちょっとずつ大きくなってる、かな。歩くペースは遅くなるばっかりだ。
 足が棒だ、胃の中がグラグラする、脳に酸素が行ってない。思考が壊れ始めてそれなりに時間が経つけど、今は一人だからまあいいか。
「座りたい座りたい寝たい寝たい寝たい寝ようそうだ寝よう」
「せめてもう少し城に近づいてからにしろ」
 そうだよね、ここで魔物に襲われたら即死だしね。城の近くじゃなきゃ休憩もとれない。勝手にあの飛空艇に乗ってちゃダメかなぁ。船員さんに追い出されて終わりかなぁ。
「うぅー……無理だってば……もう座っちゃう……」
「相変わらず体力がないな、サヤは……」
「んっ!?」
 背後から聞こえた声に心臓が凍りそうになった。振り向くより先に腕を確かめる。……アミュレットがない。気を失った? いつの間に? だいたい、景色がいつもと違う。
 あの闇は嘘みたいに消えてさっきいた場所そのまま。そのまま、ふわっと体が浮いて声が近づく。
「え、あの」
「何だ。歩けんのだろうが」
 何だとかじゃなく。わたしは一体どうしてスカルミリョーネに抱え上げられてるのでしょうか。境界を見失う……。

「ねえ、なんで?」
 やめてよ。こう見えてもけっこう無理してるんだよ。同情しろとまでは言わないけど、これ以上は勘弁してほしい。
 眠ってる間だけって割り切って、夜が来るのを待ってるのに。朝の光に清々しさも感じなくなって、いやたまには起こさなくてもいいよなんて思って、先に進むよりこのままじりじり後ろを見てたいな、とか。
 立ち止まらないために、闇に押し込めて割り切ってたのに。
「どうしていま、ここにいるの?」
 こんな光の中に。まるで現実みたいな景色に。当たり前みたいな顔して、わたしを助けないでよ。……ただの夢のくせに。
「居てはいかんのか」
「いけないとかじゃ、ないけど……」
 感じるのは気配だけ。声も匂いもすべて錯覚。そのはずじゃなかったの? 日増しに実感が強くなる。
 違和感を残しながら、だけどもしかしたら現実なんじゃないか、そんな期待は虚しいだけなのに。あんまり惑わせないで。簡単に堕ちそうなほど弱ってるんだから!
「これ……どっちなの?」
「さあな。もう私にも分からん」
 平然と答えて、わたしを抱えたまま歩き出す。混乱したままスカルミリョーネの肩に顔を埋めてみた。……久々に死臭がひどい。ずっとあやふやな匂いだったのに。でもやっぱりアミュレットは無い。
 現実? 夢? 区別がつかない。ホントに本気で壊れちゃったのかな、わたし。

「……さすがにこれ以上は近寄れんだろうな」
「かなりの高確率でわたしが襲われてるって思うよね」
 多分、怖がってるのはそんなことじゃないんだけど。例えば、誰かに見つかった瞬間わたしの目が覚めたり。あるいは現実にある誰かには、わたし達の姿が見えなかったりして? 怖い。すごい怖い。
 だから誰にも見つからないところで待ってよう。ここに誰かがいることを、知ってる人にしか探せない距離。セオドアなら見つけて起こしてくれるはずだ。
 目を覚ましたらそっちが現実。大丈夫、まだわかってる。
「あのね、でも、来てくれてありがとう。嬉しい」
「……そうか」
 想いだけならいつだって現実なのにな……。

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