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 荒療治ってヤツだ、なんてパロムは言っていたけど、本当かしら。どこかで他人事と楽しんでいるようにも見えて不安になる。それは、彼らにしてもそうだけれど。
 すぐ傍でサヤと話し込んでいるのはスカルミリョーネ。構わないと言いはしたけど、やっぱり今でも町に魔物の姿は馴染まない。……バルバリシアだけ、一部熱烈に受け入れてる者もいるけど。一体何を考えてるのかしら……、さっきから一向に行動しない。ただただサヤとどうでもいい話を続けてる。
 何度彼女を見つめても、切羽詰まっているようには見えないのに。パロムは旅を通して物の見方が変わったみたい。わたしはまた置いて行かれているのかと、自分の思考に逃げそうになって慌てて頬を叩いた。

 ふと見るとサヤがスカルミリョーネを見上げ、何か神妙な空気になっていた。やり方を変えるのかしら? 正面から説教したってサヤは聞かないと、そこは四天王も同意しているようだったのに。
 ほんの少しの沈黙のあと、あまりにもまっすぐに吐き出された「大好き」という言葉に、驚愕したのはわたしだけで。当の彼らは淡々と会話を続けていた。
「スカルミリョーネには言えるのにねー」
「今更それを私に言ったところで無意味だろう」
「無意味ってことないと思うけど……」
 なんでゴルベーザには言えないんだろうと、そのセリフも確かに気にはなったけど。待って、どうして普通に話が進むの? その、『何と言うこともない、いつもの会話』って空気は何ですの!?
 そういえば彼女は、スカルミリョーネではない方にも気兼ねなく好きだと言っていた記憶がある。……それでもゴルベーザにだけ、伝えられないなら……なんて不憫なんだろう。そんな危なげな二人が結婚だなんだと言ってていいのかしら。おめでたい話だと、思ったんだけどな……。

「……お前自身は、ゴルベーザ様のものになる決心は変わらないのだな」
「決心っていうか……今更って気もする。わたしの意思に関係なくわたしを動かせるの、もうゴルベーザだけなんだし」
「ならば何を悩む必要があるんだ」
「悩んでるのはわたしじゃないもん」
 何か……すごく際どい発言があった気がするんだけど……。それはつまり、サヤはもうゴルベーザのものだって……えっと。
「ポーロームー、ちょっといいですか?」
「えっ、は、ははい!」
 迂闊にも裏返った声に訝しそうに首を傾げて、それでも何も聞き返さずにいてくれた気遣いに感謝した。とんでもない想像をしてしまいましたわ……。
「パロムに好きって言える?」
「…………ええっ!?」
 思いがけずわたしについての質問だった。驚きすぎて一瞬思考が止まった。好きって? わたしがパロムに……どうかしら。うんと幼い頃には言ってたかもしれない。だけどわたし達もお互いにあまり素直な子供ではなかったから……。少なくとも今は、
「そう簡単には言えませんわね」
 照れもあるし意地もある。悔しさや嫉妬心、だけど確かに『本当は……』という実感があるからこそ、素直な言葉は出て来ないはず。

 わたしの言葉にサヤはスカルミリョーネを振り返り、ほら! と何故か胸を張ってみせた。
「想ってないんじゃないんだよ、でも……」
「……やはり駄目か」
「うぅ」
 唸りか肯定か分からないけど、俯いたサヤは照れ臭そうに頬を染めて、少しだけ悲しそうな顔をした。それを横目で見遣ってわざとらしく溜息をついてみせ、そうしてスカルミリョーネは「仕方がないな」と呟いた。え、と彼女が顔をあげる間もなく。
「寝ろ」
 あまりにも短い言葉とともに、放たれた魔力にあてられサヤが崩れ落ち、その体がさりげなく抱き留められた。
 結局、実行するんだわ。本当にこれでいいのかしら。こんなこと、当人同士でゆっくり進めるべきことだと、思うのに……。
「おい、白魔道士」
「……なんですの」
 いい加減に名前くらい覚えてほしい。ここに何人白魔道士がいると思っているのかしら。
「うちに行って様子を見てきてくれ」
「ゴルベーザの方なら、もう終わってますわよ」
 そう言ってみせると、スカルミリョーネが僅かに目を見開いた。一応表情も感情もあるのね。……分かりにくいけど。
「ゴルベーザ様を相手に躊躇せんのか、奴らは……」
 あちらは四天王が三人がかり。眠らせて縛って閉じ込める。荒療治というか……場合によっては嫌がらせにも成り兼ねない。サヤが本当に悩んでいるとして、こんなことが解決になるのかしら。
「……あなたは躊躇しましたのね」
「…………」
 腕の中で眠るサヤをじっと眺めて、また溜息をついた。

「お互いに大切に想っているのなら、他人がどうこう言わずとも、自然に一番いい道を選ぶはずですのに」
「……お前達とは違う」
 そうやって距離を作っているのはあなた達の方じゃないのか。サヤが異世界の住人だからと、弱いからと、守ってあげたい気持ちばかりを押し付けて。彼女の意思がない。
「モンスターを愛せるならどんなことだって受け入れられると思いますけど」
 幸せを目前に戸惑うゴルベーザは、罪に逃げているようにも見える。許されて罪を受け入れられるのは、憎まれるよりつらいのかしら。
「……受け入れすぎるからこうなるんだ」
「えっ……?」
 どういう意味かと尋ねたかったのに、さっさとサヤを抱えて家に向かって歩き出す。その体格に隠れて彼女の姿は見えなかった。……自分達だけが理解してるみたいに。その態度が嫌だわ。

 結論を出すまで逃げられないようにする、なんて。そんなに追い詰めなくてもいいじゃない。逃げたくなるなら今はまだそれが必要なのではないの? 例え時間がかかったとしても……二人が自分で幸せをつかみ取る強さを得るのを、待っててあげればいいのに。

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